歌手のCoccoさんと、映画監督の塚本晋也さん。
ファンが多いこの2人のクリエーターが、今回タッグを組みました。
それがCoccoさん主演の映画『KOTOKO』。
一人で幼い息子を育てている主人公・琴子の壮絶な生きざまを描いた、塚本晋也監督の新作です。
塚本晋也さんは、自主映画出身。『鉄男』(1989年)がローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを受賞するなど、国際的な評価が高い監督です。
他にも、『鉄男II BODY HAMMER』(1993年)、『六月の蛇』(2003年)、『ヴィタール』(2004年)、『鉄男 THE BULLET MAN』(2010年)のほか、沢田研二主演の『ヒルコ/妖怪ハンター』(1991年)、松田龍平主演の『悪夢探偵』(2007年)などを制作されています。
今回の『kOTOKO』の前には、2010年にCoccoさんが映像クリエーター7人と手がけた自主制作プロモーション映像集「Inspired movies (インスパイアード・ムービーズ)」に参加。
その塚本晋也さんに、『KOTOKO』の制作にまつわるお話やCoccoさんのこと、映画作りの姿勢などについて話をうかがいました。
(『KOTOKO』公式サイトはこちら)
『KOTOKO』が出来るまで
‐‐‐『KOTOKO』を見て、Coccoさんの演技に驚かされたんですが、どういったふうに作っていかれたんでしょうか。
塚本 もともと脚本の制作自体、僕がCoccoさんにインタビューするところから始めたんですね。だから、Coccoさんの話したこととか書いたことを基盤に物語を作っています。さらに、キャラクターを作り出す時にまたCoccoさんに違和感ないか聞いて直しています。だから脚本が完成した時に、Coccoさんの中では琴子という人物が出来上がっているんです。どの部分をどう切り取っても琴子だと。
‐‐‐ストーリーには、Coccoさんの体験が反映されているんでしょうか?
塚本 「ものが2つに見える」などの体験も入ってますし、Coccoファンとして僕が作ったストーリーも入っています。
‐‐‐「Inspired movies (インスパイアード・ムービーズ)」を塚本監督が作った時から、Coccoさんとご縁があったんでしょうか?
塚本 もっとさかのぼって、『ヴィタール』(2004)という映画からですね。Coccoさんのイメージを強く意識したキャラクターを作り、脚本を送ったんです、「見てください」って。そうしたら、曲を送ってくださって。それが「blue bird」という曲です。
‐‐‐それで、「Inspired movies」そして『KOTOKO』につながっていくわけですか?
塚本 実は『ヴィタール』の時から、映画に出てもらいたいとずっと話していたんですね。そうしたらCoccoさんに「Inspired movies」が気に入ってもらえて、「今なら時間作れますよ」って連絡いただいたんです。願ってもないことだったので、撮らせていただくことになりました。
Coccoさんと向き合って
‐‐‐『KOTOKO』を見て「塚本監督のラブレターなのかな」という感覚を覚えたんですけど、そういう意識はあったんでしょうか。監督自身も重要な役どころ(琴子の前に現れる小説家、田中)として出演されてますし。
塚本 あの役に関しては、もともと僕がやるつもりはなかったんですけど、Coccoさんから「やって」と言われまして。でも良く考えてみたら、田中が琴子に向かう姿勢と、監督としての自分がCoccoさんに向かう姿勢がシンクロするところもあるんですね。僕が田中をやれば、映画の作り方もよりシンプルになりますから。今回は「なるべくシンプルにして、Coccoさんに近づいて引き出す」というテーマを掲げていたので、それを一生懸命やりました。いつも自分の作品で抱いているような“野心”は田中を演じることでは何もなかったですね。
‐‐‐いつもは“野心”があるんですか?
塚本 いつもはありますね(笑)。なんとか良く見せよう、とか。今回は本当に「良く見せよう」なんて一回も思わなかったですね。ただ、Coccoさんが良く映るように、と。最初は自分が一緒に映っているのも邪魔でしたからね(笑)。
‐‐‐「Coccoさんが演技に集中できるように、撮影中はいろいろ配慮した」という話がパンフレットで書かれていたと思うんですが。
塚本 前半に配慮が行きとどかなかった部分があったので、だから毎回撮影前日に、翌日の段取りをきっちり作るようになりました。
‐‐‐撮影の日数はどの程度かかったんですか?
塚本 今話したようなじっくりした作り方をしていたので、内容に比べて長めの2カ月ぐらいですかね。
‐‐‐撮影の直前ぐらいで東日本大震災があったと聞いたんですけど、作品や監督に与えた影響はあるんでしょうか?
塚本 作中での「子どもを守る琴子」っていうのがエキセントリックにも見えると思うんですが、でも震災の時のお母さんたちって子どもを守るためにすごく敏感でした。不安な状況下では、子どもに対してああいうふうになるのはむしろきわめて正常、自然なことだという実感ができましたね。さらに言うと、震災の時のお母さんたちに寄り添いたいような気持ちで、この映画を作りました。
‐‐‐そのあたり、作品ができた後の手ごたえはありますか?
塚本 すごくあります。
映画作りの姿勢
‐‐‐ご自身の映画はよくご覧になるんですか?
塚本 よく見ますね。『鉄男』や他の映画で、たとえば映画祭に持っていって上映されますよね。その時は観客と一緒に何度でも見るんです。「次どうしたらいいんだろう」という勉強にもなるので。
いつもは作品の編集にすごく時間、たとえば2カ月・3カ月ぐらいかかってて、完成してから見る機会がさほどないんです。でも今回は2週間ぐらいでだいたい形になっちゃったんです。その後細かい調整する時に何度も何度も見直しているので、いつもよりたくさん見ることができました。それでも飽きることがなかったですね。
‐‐‐監督によっては、作ったらもう全然見たくない、という人もいると思います。
塚本 僕はそういう意識はないですね。むしろ自分が見たいから作っているところがあります。だから映画自体も、何度見ても飽きないように撮っています。『鉄男』とかは、レコードを聴く時みたいな感覚で作っていましたね。映画の筋やストーリーもありますが、「このフレーズが見たい」って感覚で。
‐‐‐『KOTOKO』ではそういう感覚はあるんですか?
塚本 今回はそういった気持ちで作ってないんですが、それでも何度も見ちゃいますね。いろんなところをチェックするために見直すんですけど、毎回その箇所から最後まで見ちゃって、時間がかかってしょうがいないです(笑)。
‐‐‐最後に皆さんの一言お願いします。
塚本 不安な時代を生きる嘘偽りのない女性の姿を、Coccoさんがすばらしく演じてくださいました。まずそのCoccoさんを見ていただきたいですし、必死に生きようとする琴子を見て、愛する人を守ろうとすることがどんどん難しくなっていく現在の状況に思いを馳せていただけたら、と思います。
塚本監督、ありがとうございました。
映画『KOTKO』は全国で順次公開中。
公式サイトはこちら
塚本監督の映像、演出、そしてCoccoさんの体当たりの演技を、ぜひご覧ください。
(2012年3月 取材・執筆:森田和幸)