「ミニシアターの中の人」番外編。キネプレ編集部による、「中の人」インタビューです。
ミニシアターという定義は、人によって少し曖昧だ。一般には、大手のシネコンと比べて語られることが多い。「大手映画会社を通さず、単館系の作品のみを扱う映画館」というのが、一番しっくりくる表現かもしれない。かつて多くの映画ファンは、ミニシアターを一つの入り口として、無数の良作と出会ってきた。
その定義で言えば、今回紹介する「塚口サンサン劇場」は、ちょっと異色だ。
むしろ今までは、大手作品ばかりをかけてきたと言っても過言ではない。誰もが耳にしたことがある作品を上映し、地元・尼崎の人たちが足しげく通う映画館となっていた。
だが2012年初頭あたりから、単館系作品の上映をスタート。今では地元以外の映画好きからも徐々に知られる存在となった。
それはなぜなのか。そしてこれから、塚口サンサン劇場はどのような映画館になろうとしているのか。同劇場スタッフの戸村さんに、お話を伺った。
戸村さんの話は、まず塚口サンサン劇場の開設から始まった。
もともとは西脇市の小館「西脇大劇」、神戸市の名画座「西灘劇場」、そして尼崎市の「塚口劇場」の3館で運営していたと話す。
塚口劇場は1953年に開設。阪急塚口駅前の再開発に伴って、1978年に現在の「塚口サンサン劇場」として再オープンした。今年で開設60年を迎えている老舗だ。ずっと地元密着の映画館でやってきたから、3世代通して訪れてくれている人もいるという。
そんな中、サンサン劇場に寄せられたのが、「もっといろんな作品を観たい」という声だった。地元の年配の方だと、わざわざ三宮や梅田まで行くことも難しい。でも良質の映画をたくさんたくさん観たい。
「だったらやろうじゃないか」
そんな気持ちで、単館系作品の上映に踏み切った。
2011年11月に『電人ザボーガー』という作品を試験的に上映。「やるんだったら、振り切るぐらいやってやろう」と県内ではどこも上映していない作品をあえて選んだところ、わざわざ東京から見に来る人もいるぐらい好評だったという。「単館系の作品を観たい人たちは、まだまだたくさんいるんだな」と実感した。
「本当に『電人ザボーガー』は、当劇場にとってエポックメーキングでした。冗談で“ザボーガー前”“ザボーガー後”なんて呼ぶこともあります(笑)」
その好評を受け、2012年1月からミニシアターとしての活動を本格的にスタートした。もちろん大手配給作品の上映は逃さない。だがその隙間を埋めるように、単館系の作品をかけつづけている。
「でもハードルはできるだけ下げたいと思っているんです。単館系の作品をかけるというのは、下手をしたら門戸を狭めることにつながってしまう。イメージは、壁を高くするのではなく、横に広げていくような感覚です」
どういう基準で上映作品を選んでいるか。それを聞くと、意外な答えが返ってきた。「『どのような作品を上映するか?』も大事ですが、『いつ、どの時間帯なら上映できるか?』という調整もとても重要になってきます。まずそこが決まらないと、作品を選ぶことができません」。その調整にいつも苦心していると話す。
戸村さんの同僚がいつも調整役として尽力している。今後のスケジュールを全体で把握して、抜けた箇所を見つけたり作りだしたりしながら、埋めていく。「まるでパズルのよう」だという。
同時に作品の選定が始まる。たくさんの映画を観てきた経験を総動員して、「空いた箇所に当てはまるべき作品は何か」を見出す。そうして「サンサン劇場のセレクト作品」が決定される。
塚口サンサン劇場と言えば、ツイッターでの活躍も目覚ましい。多くのフォロワーを持ち、時には冗談を織り交ぜながら、双方向のコミュニケーションを実現している。
ツイッターは費用がかからず、スピード感を維持できる。今は2週間ごとにどんどん作品が変わっていくので、頻繁に新しい情報を出さなければならない。だから「すぐ配信できる」というのがありがたかった。「ホームページは“見に来てもらう”存在。一方ツイッターは、フォローしていただければ押し売りのように(笑)発信できる」と戸村さんは言う。
観客の声が聞けるのも重宝しているところだ。ブログのコメント欄ではなかなか書きづらくても、ツイッターだったらつぶやいてくれる。多くの観客が入ったからといって、それがみなさんに心の底から受け入れられたとは限らない。その点ツイッターでは、いろんな感想を拾い集めることができる。それが利点だという。
そんなサンサン劇場自身のツイートは、時に個性的でユーモラスだ。もともと自分でツイッターをやっていた時から、「宣伝だけのツイートは読み飛ばしてしまいやすい」と感じていたという戸村さん。だから試行錯誤しながら、いろんなツイートを試しているという。お客さまと近い距離に寄り添い、ユーモアを飛ばす。時には笑われ、時にはツッコミを華麗に切り返しながら、フォロワーの記憶に焼き付いていく。それがサンサン流のSNSだ。
同館が次々と打ち出す企画も魅力的だ。クリスマスツリーを自作したり、飲食しながら映画を観る企画を打ち出したり。中でも昨年から始めた「語る映画館」シリーズは、すでに多くのファンを獲得していると聞く。映画を観終わった後に、観た人たち同士で感想や意見を語り合うという催しだ。
「映画の楽しみ方は一つじゃない。それをみんなで共有したかったんです」そんな思いで、観客同士が交流できる空間を作った。最初に扱ったのは、昨年の邦画界で話題をさらった『桐島、部活やめるってよ』。この作品に対して一言語りたい人たちが精力的に手をあげ発言する、白熱したイベントとなった。「観終わった後に、あーだこーだとおしゃべりをするのも楽しみの一つですから」戸村さんたちがそう信じ、交流する場を設けた結果だった。
こうしたイベントでの集客、ツイッターでの波及、そして上映作品のチョイスが功を奏したのか、今では若い観客がすごく増えたという。さらに顕著だったのが、尼崎市外の人の増加だ。地元密着でずっとやってきたが、いまでは地元以外の観客も呼び寄せることになった。
「もちろん、大手作品もかけつづけます」と話す戸村さん。「まずは、『映画って面白いな』って感じてほしい。それをきっかけに、違う作品にも興味を持ってもらえたら」と期待を寄せている。
「映画館離れ」が言われるようになって久しい今。そのことについて、戸村さんはこう話す。「離れていったのは、DVDやダウンロード、スマホなど、さまざまな原因があると思います。でも作品の面白さ、映画館で映画を観る楽しさを伝えるのは、お客さまと直接触れ合う映画館の仕事だと考えています。サンサン劇場は、それをひたすら実践していきたいですね」
尼崎の塚口に生まれた新しいミニシアターの文化が、いつか大きく花開くのを期待したい。