神戸クラシックコメディ映画祭を主催する団体「古典喜劇映画上映委員会」の委員長のいいをじゅんこさん。そのインタビューの中編です。
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天宮遥さん(中央)旧グッゲンハイム邸にて |
■活動写真弁士の語り、ピアノの生伴奏、楽団の演奏付き、盛り沢山なクラコメの上映形式
――クラコメのベースになった2016年の『新春コメディ宝箱』にはすでに、柳下美恵さん、鳥飼りょうさん、それぞれのピアノ伴奏付き上映がありました。これはわりと上映形式として豪華なことだと思いますが、いかがですか?
鳥飼りょうさん |
それはコメディだからですね。やっぱりね。ふふふ。「ニコニコ大会」だから。盛り上がりたいじゃないですか。盛り上げたい。ふふふ。それだけなんです。私の目的は。
盛り上げたい。だからサイレント映画とピアノの生伴奏を併せた上映形式のパイオニアでもある柳下美恵さんはもちろんなのですが、ちょうどそのころ関西には、楽士として一本立ちして何年か経った鳥飼りょうさんがいて、お願いさせていただいたんです。そしてクラコメ2017からは天宮遥さんにも。ちなみに天宮さん。その時のクラコメで『キートンの結婚狂』(1929)を伴奏されたんですけど、それが天宮さんのサイレント映画ピアニストのデビューだったみたいで。
天宮遥さん |
――へぇぇ!! 天宮さん。クラコメがデビューなんですか?
そうみたいなんですよ。もともと神戸映画資料館の田中範子支配人のお知り合いで、紹介してもらって、伴奏してもらったんです。
だからクラコメのスタートの段階で、柳下さんは関東からお呼びしているけれど、関西で楽士さんが3人も確保できてしまった。さらに活動写真弁士の大森くみこさんも関西にいて、今になって思うと、これは凄いラッキーなことですね。
――関西の、最近のサイレント映画+ピアノ伴奏上映の多さ、熱狂ぶりは、関東の人から羨ましがられますからね。
そうですよね。楽士や弁士の皆さんが積極的に上映活動をしてらっしゃって、盛り上がっています。
あとクラコメでは三味線とお琴の音色にあわせて戎屋海老さんに活弁をしてもらうなんてこともやりましたね。神戸映画資料館には、姉妹でやられてる喫茶チェリーが併設されているんですけど、そのお姉さんの方がお琴をやっていて、お琴は彼女にお願いしたんですよ。
戎屋海老(弁士)+清優の会(琴・三味線) 神戸映画資料館にて |
――へぇぇ!!
それも「ニコニコ大会」の再現で。和風の演奏がほしいな、って。それは今もずっと思ってて。いつかまた実現させたいなと思ってるんですけれどもね。
そして、さっきも話に出たとおり、塩屋楽団が2019年から加わって。塩屋楽団は現代的な空気をクラコメにもたらしてくれたなと思いますね。クラコメはさっきから何度も言ってますけど「ニコニコ大会」の再現で、盛り上がることが目的だけど、ただただ昔を懐かしむだけじゃない。今、楽しめるものとして古典喜劇を皆で楽しみたいというのがあります。だから塩屋楽団が今という時代と古典喜劇を繋いでくれているというのがありますね。そしてそれがチャーリー・バワーズのスマッシュヒットに繋がっているんだと思います。
チャーリー・バワーズ 画像提供 Lobster |
――「NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ -発明中毒篇-」は、塩屋楽団+Solla(柳下美恵さん)のキレッキレな伴奏がほんっとうに魅力的でした。とても前衛的で。チャーリー・バワーズが面白いというのはもちろんなんですけれど、音楽の、伴奏の力も大きかったのではないか、と思います。
そうですね。これは神戸映画資料館の田中支配人の思惑だったのですけど、やっぱりチャーリー・バワーズもただ古いものを観るというのではなくて、今、楽しめるものとして現代のお客さんに、新作映画を観るように、観てほしいというのがありました。それはクラコメにも通じる精神だと思います。
――本当にクラコメはいろいろやられてますよね。2020年には、大森くみこさんを講師に「こども活弁体験ワークショップ」を開かれています。
クラコメ2020こども活弁体験ワークショップのチラシ |
大森くみこさん |
やりましたね。旧グッゲンハイム邸で。近所のお子さんとか、小学校の先生も来てて。本当にね。すっごい楽しかったんですよ。私もちょっと参加させてもらったんですけど、台本(映画に説明を付ける)を書くところからやって。
――台本を書くところから!
『茶目子の一日』(1931)というぶっ飛んだアニメ知ってます? ふふふ。そんな感じの短い作品をいくらか決めておいて、その中から、班分けして一本選んでもらって。台本書く人、パフォーマンスする人みたいに分かれて。そしてね。大森さんの指導。物凄い上手で。子供さんのね。良さを引き出すのがとてもうまいんですよ。褒め上手で。すごく良い雰囲気でね。とっても楽しかったんです。これは、絶対、次の年もやろうと決めてたんですけどね。コロナ禍で。ちょっとみんなで集まってワークショップをやるのは、やめておいた方がいいとなりましてね。2021年は泣く泣く中止にしたんです。
――それは悔しい。
そうなんですよ。あれはすごい悔しかった。
――活動写真弁士と言えば、クラコメ2022では関東で活躍されている坂本頼光さんを招待されてましたね。坂本頼光さんを関東から呼ばれたのは理由があるんですか?
坂本頼光さん |
もちろん私が坂本頼光さんのファンで、というのはあります。コメディもすごくお得意ですし。だから思い切ってお願いしたんですよ。
その、本当は『キートンの恋愛三代記』(1923)とそのパロディ元のD・W・グリフィスの『イントレランス』(1916)の連続上映! というのをやりたかったんですけどね。その二作品をクラコメ内で、というのはちょっと難しくて。
『キートンの恋愛三代記』(1923) |
で、クラコメ2022で坂本頼光さんに(天宮遥さんのピアノ伴奏と共に)『キートンの恋愛三代記』をやってもらって、その前のクリスマスに、『イントレランス』を大森くみこさんに(伴奏をコントラバス奏者の稲田誠さん率いる小編成楽団に担当いただいて)やってもらうことにしたんですよ。年末と年始に日を分けての「連続上映」を。連動企画で。
大森くみこさん(中央下)と稲田誠さん率いる小編成楽団の皆さんといいをじゅんこさん(右端) |
『イントレランス』(1916) |
実はずっと『キートンの恋愛三代記』と『イントレランス』の連続上映の構想はあったんです。と、言うのも、ずっと前なんですが、神戸映画資料館で連続上映してるのを観たことがあったからなんです。その時は無音でしたけどね。実はそこで私、初めてバスター・キートンをスクリーンで観たんです。もちろんDVDとかでは何度も見てましたけど。
でもそのとき、すごいお洒落な企画やなぁ、と。そして、いつか再現してやるぞ! と思ってたわけよ。
――野望が叶ったんだ!
毎年そんな感じですよ。何かしらの野望を叶えてるんです。
神戸映画資料館での『イントレランス』の上映の様子 |
詳細情報 |
■プロフィール いいをじゅんこ(クラシック喜劇研究家) 欧米古典喜劇映画の研究と普及活動を中心に喜劇映画上映の企画・立案、執筆活動などを行う。毎年1月開催の神戸クラシックコメディ映画祭で実行委員長兼プログラミング・ディレクターを務める(共催は神戸映画資料館・旧グッゲンハイム邸)。知られざる喜劇人チャーリー・バワーズを同映画祭にて特集し『NOBODY KNOWSチャーリー・バワーズ』全国公開にもスタッフとして関わった。人呼んで「古典喜劇の伝道師」。 ■神戸クラシックコメディ映画祭会場 旧グッゲンハイム邸(塩屋) |