『マッドマックス 怒りのデス・ロード』イベント上映が生んだ副産物。
それが、「サブウーハー」の導入にはじまる、音響設備の強化である。
当時、映画館の音響設備については、東京の映画館・立川シネマシティが日本国内で一歩抜きんでた存在となっていた。
『ゴジラ』などの映画に合わせて、音響設備を充実させる一方で、イベント上映にも力を入れてきた。
前章で述べたとおり、『パシフィック・リム』でも、先んじて「応援上映」(当時はこの単語はなかったが)を行い、その影響もあってサンサン劇場の開催が実現した経緯もある。
いつしか、ユニークな企画を行う映画館の代表2館として、「東の立川、西の塚口」と呼ばれるようになっていった。
「でもうちはお金があんまりかけられないので……」と頭をかく戸村さん。
「だからこそ、お客様を楽しませる、うちならではのアイディアが必要でした」と話す。
それが、塚口独自のユニークな取り組みにつながる。
お金をかけなくても楽しいお祭りををずっと考えてきたし、「サンサン流」とも呼ばれるような進化を果たしてきた。
だが一方で、音響設備に関しても「東の立川、西の塚口」と後日呼ばれるようになるそのキッカケが、今回の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で訪れたのだ。
その時、立川シネマシティでは、同作上映にあわせて、重低音専用の高性能サブウーハーを活用し、「極上爆音上映」を行っていた。
それを聞いた戸村さんは、「うちでも、音にこだわった上映をやってみたい」と決断。
サブウーハーをレンタルしてもらえるライブハウスを紹介してもらえたことで、イベント当日の設置が実現した。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、爆発・銃撃・アクション・カーチェイスが盛りだくさんの映画だ。重低音との良い相性もあいまって、重低音ウーハー付き上映の迫力は、多くの参加者を驚かせた。
一方で、その反響を見た戸村さんやスタッフの脳内にも「音響」のこだわりが芽生えはじめた、大きな契機だったと言える。
それが再び花開くのが、2016年。
3月に企画されたのが、アニメーション映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』のイベント上映。マサラ上映やコスプレ、ダンボール展示、ご当地とのコラボなど、盛りだくさんの内容で行われたイベントだったが、音響にもこだわった。
戦車の音をより迫力あるようにするべく、ウーハーを再びレンタルすることにした。
当日の様子
ダンボール戦車も登場
そこに登場したのが、音響監督の岩浪美和さんだ。アニメや吹替の音響監督として活躍しながら、映画館での音響調整を精力的に行っていた。
岩浪さんはそれ以降、塚口サンサン劇場にとって、なくてはならない存在になっていくが、このあたりの話は後の章で詳しく触れることにする。
その流れで、2016年5月には、それまでレンタルで済ませていた増強から一転、音響設備の更新に合わせてスピーカーなどを新規導入。いまの塚口サンサン劇場につながる音響設備が、常設されていく。
それ以降、塚口サンサン劇場の音響は、徐々にステップアップしていくことになるが、現在の段階に至るまでは、もう一段階の価値感の変化を必要とした。
これについても、後の章で詳しく述べたい。