こうして、塚口サンサン劇場での『電人ザボーガー』の35フィルムでの上映が決まった。
デジタルの映写機がなかったことが呼び込んだ偶然だが、「全国でただ1館、ザボーガーがフィルムで観られる映画館」という独自性を持つこととなった。
このようなラッキーは、それ以降も同劇場にたびたび訪れることになるが、ただのラッキーで終わらせず、それを「映画館の名前を覚えてもらう」「自分たちの運営の方針のヒントにしていく」ことにその都度活かしていったことで、今の塚口サンサン劇場の存在があると言ってもいい。
また、ザボーガーとフィルムの相性も良かった。
「往年の特撮は、ブラウン管で観ていたファンも多かったんです。その画面の感じが、フィルムの質感とマッチしたんだと思います」
戸村さんはそう語る。
その結果が、序章で書いた現象を招いた。
ツイッターで「塚口サンサン劇場に行きます」という投稿に東京駅の写真が添えられ。
劇場の電話は
「大阪国際空港(伊丹空港)からの行き方」
「新大阪駅からの行き方」
「近くにホテルがあるかどうか」
の問い合わせで鳴りつづけた。
「こういうファンの方はいっぱいいた、ということに気づいたんです」と戸村さん。
「こういうファン、とは?」
「本当に自身が観たい映画のためなら、遠方にでも、時間とお金を使ってでも観に行きたい、と考える方たちです」
映画館の鑑賞料金は、近年よく「高い」と言われる。
娯楽の種類が多様になり、無料や格安で楽しめるものも格段に多くなった。
配信が主流になり、月額料金さえ支払えばあとは観放題。
それ以外にも、手軽に時間をつぶせるコンテンツも増えた。
そんな現代において、1,000円を超える料金を払い、わざわざ足を運ぶ、という種類のエンタテインメントは、そのコストを問題視されることも多い。
映画館がその代表格だ。
昔、同じことがテレビやレンタルビデオの時に起こった。テレビで映画が無料で観られ、ビデオは数百円でレンタルできる。そして今は、配信でも同じことが起こっている。
だから決して安くない「映画館での鑑賞」に、みんな足が遠のきはじめているのではないか。
「いや、実はそれは違うんじゃないか、ということに気づきました。映画館に足を運ぶ価値がある、と思える作品を届ける環境を作ることが大事だと思ったんです」
それを教えてくれたのが『電人ザボーガー』だという。
だから塚口サンサン劇場にとって同作の上映は、「ザボーガー後」と言えるほどのエポックメイキングな出来事だったのだ。
(C)2011「電人ザボーガー」フィルム・パートナーズ
それは、ツイッターで話題になった、とか、外の地方から人が押し寄せた、ということではない。
一見してこの話題が華やかに見えるが、本質はそこではないのだ。
本当にエポックメイキングだったのは、戸村さんをはじめ劇場のスタッフが、今後の方向性を改めて新たなアイディアを生み出していく、そのきっかけになったからだった。
「映画を観たい人たちはいっぱいいる。そして、思いがあるから、わざわざ塚口まで足を運んでくれる」
「そこに料金の多寡は関係ない。本当にお金を払いたいものなら、人は喜んで足を運び、楽しんでくれる」
それが戸村さんたち劇場スタッフが学んだことだ。
『電人ザボーガー』が塚口サンサン劇場にもたらしたのは、ちょっとした県外からの知名度と、大きすぎるほどの「考え方の変化」だった。
こうして塚口サンサン劇場は「ザボーガー後」となる2012年以降、自由で柔軟な発想と、お客様が喜ぶホスピタリティを発揮して、目を見張るほどのスピードで日本全国区の知名度を獲得していくこととなる。
毎年来場客数を増やし、コロナ禍になるまで、売り上げも右肩上がりの成長を続けた。
次章以降は、その動きを細かくひもといていきたい。