兵庫県の塚口サンサン劇場で10月8日(金)から上映が決定した『白蛇伝』。日本の最初の長編カラー作品として知られる同作と、現在公開中の新作『白蛇:縁起』のつながりを、アニメ映画ライター・ネジムラ89さんがひもときます。
「竹取物語」が、高畑勲監督の手によって『かぐや姫の物語』(2013)として映画化を果たしたように。そして2022年には「平家物語」を『映画 聲の形』(2016)や『リズと青い鳥』(2018)の山田尚子監督が2022年にTVアニメ化することを発表したように。遥か昔に生まれた物語は、度々アニメーションへと生まれ変わっていきます。
1958年に生まれたアニメーション映画『白蛇伝』、そして、2019年に中国で制作された『白蛇:縁起』もそんな古い伝承のアニメーションとして語り直されていく流れの例の一つであり、実は両作品とも、奇しくもアジアのアニメーションにとって、節目を担う存在です。この二つの作品を並べたとき、物語というものがどう後世に伝わっていくのか、現代の伝承の在り方を知ることができます。
中国の伝承「白蛇伝」
『白蛇伝』、そして「白蛇:縁起』はどちらも同じ伝承をベースに描かれたアニメーション映画です。中国にはいくつもの民話が存在する中、中でももっとも有名な民話が4つ存在しており、「七夕伝説」「孟姜女」「梁山伯と祝英台」といった作品と共に名を連ねるのが、「白蛇伝」という物語。
人間の女性へと変身した白蛇と、人間で書生である男性・許仙が相思相愛の仲となるのですが、白蛇の正体を見破った法海と呼ばれる僧侶によって、封じられてしまうという儚い物語でした。
有名な大筋はこの通りなのですが、口承文芸として伝わってきた「白蛇伝」は、一つの決まった物語としてでなく、現代に少しずつ違った物語として、そして時には全く違うような物語として各地で伝わっていくこととなります。幾重にも渡って、語り直されてきた、その流れと同じく、「白蛇伝」はアニメーションとなる上でも、独自の味付けが成されていきます。
日本でアニメーション映画化する「白蛇伝」
まだ長編アニメーション映画の数も限られていた1958年。東映動画……今の東映アニメーションが『白蛇伝』というアニメーション映画を公開することになります。
一般的に知られる映画ではないでしょうが、本作は、日本のアニメーションの歴史を追っていった時、必ずこの映画の名前と出会うことになるほど、重要な映画です。何を隠そう、この白蛇伝こそ、日本で最初に長編カラー作品として大々的に公開を果たした映画だからです。
初の長編カラー作品という記念作に、なぜ中国の物語を取り上げたのかは、1956年に一足先に「白蛇伝」をベースに描いた東宝の実写映画「白夫人の妖恋」が、香港の映画会社の出資の上で制作されて大ヒットとなったことに起因しています。次なる企画として、「白蛇伝」のアニメーション化の話が東映に持ち込まれ、進んでいった企画がいつのまにか東映にとっての新たな社運をかけた大きな企画へと広がっていき、東映動画の設立や初のカラー長編作の公開にまで及ぶこととなりました。
(C)東映
この東映版『白蛇伝』では、幼い頃に少年に救われた白蛇が時を経て、少女の姿の白娘(パイニャン)となって、再びかつての少年である許仙(きょせん)に会いにやってくる物語となっています。白娘と許仙の二人の恋愛映画であり、海を渡ってのスケールの冒険譚でもあり、さらには、妖術や法力が飛び交うファンタジーアクション映画にもなっていたりと、今見てもその内容の充実ぶりに驚かされる映画となっています。大筋こそ伝承の「白蛇伝」に添いながらも、マスコットキャラクター的な立ち位置のパンダやミミィが活躍したりといったアレンジにはどことなく日本アニメーションらしいイズムを感じます。
「白蛇伝」の最新版の『白蛇:縁起』
こうして日本でもアニメーション映画化という足跡を残していった「白蛇伝」ですが、一方の中国からしてみると、「白蛇伝」の映像化の長い歴史の中の一つに過ぎないこともわかります。1926年には、早くも「白蛇伝」の映画化作品『义妖白蛇传』が制作され、舞台劇やテレビドラマ、映画としてなんども繰り返し映像化を果たしていきます。
そんな、歴史の最先端を担うのが、中国のアニメーション制作会社・追光動画が2019年に制作したアニメーション映画『白蛇:縁起』となります。2015年に制作された『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(2018年日本公開)の大ヒットを皮切りに、中国では大人も楽しめる中国発の3DCGアニメーション映画の波が到来し、その流れと代々映像化を果たしてきた「白蛇伝」が交わり、この『白蛇:縁起』が生まれたと言えます。
(C)Light Chaser Animation Studios (C)Bushiroad Move. (C)TEAM JOY CO., LTD.
物語は、記憶を失った白蛇の妖怪である白と、そんな白を救った青年・宣が、互いに惹かれあっていくものの、国師や蛇族たちの争いに巻き込まれて、その仲が引き裂かれていくこととなっていきます。
中国では何度も語り直されてきた「白蛇伝」でしたが、繊細で艶かしい人間の表現や、“異能バトル”物のようなスピーディーなアクションシーン、さらには巨大な大蛇や鶴がぶつかり合う怪獣映画のような展開など、手法だけでなく演出に関しても、その最先端ぶりが垣間見れます。
かつての「白蛇伝」と今の「白蛇伝」
かつての日本が手がけた『白蛇伝』と、今の中国が手がけた『白蛇:縁起』。
その二つを比較して観た時に、ここであげたような当時のアニメーション事情や、国ごとの特色の違いを踏まえてみるとその違いはより鮮明になってきます。
一方で、共通点を観ていくことで、それまで「白蛇伝」という伝承に馴染みがなかった人にも、伝承として伝わってきたパーツの一つ、一つがはっきりわかるでしょう。
例えば、白蛇である女性のそばにいる存在である女性として、東映版『白蛇伝』では小青という青魚の精が登場し、『白蛇:縁起』では青という蛇側へ連れ戻そうとしながらも白蛇を慕う存在として登場します。
また、東映版『白蛇伝』で白娘と許仙が再会する場所として七重の塔が登場し、これと同じように『白蛇:縁起』でも主人公の白と宣が心を通わせ、そしてまた離ればなれになる思い出の地として、高い塔が登場します。
これらの共通点は、やはり元となる伝承「白蛇伝」にも伝わる要素の一つであり、白蛇を救う存在として青という仲間が登場したり、白蛇が法海に封じられたとされる雷峰塔と呼ばれる実在の塔があり、それを象徴した舞台設定となっています。
この2つの映画を比較してみただけでも、明らかに違う物語の中にも共通点があり、「白蛇伝」が語り直されていく中で、要素として何が変わり、残っていくのかという伝承が変貌していく様子が垣間見れます。
人間一人の寿命を遥かに超えるスケールで生まれ変わっていく“伝承”という現象が、現在進行形で次世代へと繋がっていくーーその様子を現在進行形で観察することができるという意味でも、「白蛇伝」はまさに今その行方に“追いがい”のある物語となっています。
中国では、『白蛇:縁起』の続編として2021年7月に『白蛇2:青蛇劫起』が公開され、「白蛇伝」の物語はまた新たなステージへと進もうとしているのです。
『白蛇伝』『白蛇:縁起』はともに塚口サンサン劇場で10月8日(金)から上映予定。
『白蛇伝』は10月14日(木)まで、『白蛇:縁起』は字幕版が10月14日(木)まで、日本語吹替版が10月21日(木)まで。
また『白蛇伝』は、京都みなみ会館で10月8日(金)から10月21日(木)までの上映も決定。(同館では『白蛇:縁起』も10月21日(木)まで上映中)
詳細情報 |
■上映日程・映画館 【塚口サンサン劇場】 『白蛇伝』 10月8日(金)~10月14日(木) 『白蛇:縁起』字幕版 『白蛇:縁起』日本語吹替版 塚口サンサン劇場 【京都みなみ会館】 『白蛇:縁起』日本語吹替版 京都みなみ会館 ■サイト |