ホテルを描いた映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』の公開に合わせて、実際にホテルで勤務している松原明子さんによる紹介記事を公開します。
私はホテルで6年半勤務しているが、ザ・カーライル ア ローズウッドホテルという名前は聞いたことはなく、映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』で初めてその存在を知った。セレブ御用達で、大統領や英国王室も利用する歴史あるホテルだというが、高級ホテルは世界中にたくさんあるのに、なぜカーライルは特別なのだろうか、と気になりながら映画を観た。
カーライルには、「宿泊者の秘密は必ず守る。だから安心して宿泊できる」という評判がある。私が働いているのはビジネスホテルで、最高級のホテルであるカーライルとは設備も提供するサービスも全く違う。けれど宿泊者の情報を漏らさないのは同じで、これはどんなホテルにもある決まりだ。
ただ、豪華なセレブが宿泊するカーライルの秘密は誰もが知りたがり、もしかするとニュースになるかもしれない特別なものだ。いくつかあるホテルのエピソードの中でも、ダイアナ妃とマイケル・ジャクソンとスティーブ・ジョブズが同じエレベーターに乗ったという逸話を聞くと、他にはどんな秘密が眠っているのだろうと興味は尽きない。いくらスタッフの口が硬くても、ホテルの利用者が目撃してばらしてしまうのではないかと思ったが、カーライルはスイートが一泊200万円、それ以外も数十万円という驚きの宿泊料。さらに、アッパーイーストサイドというニューヨークの高級住宅地に建っている。
つまり秘密が守られるのは、宿泊客もホテルの周りの住人も、セレブか彼らに引けを取らない大富豪ばかりなのもあるだろう。そしてそれだけ客層を選ぶ格式あるホテルがカーライルなのだと知った。ホテルのカフェやバーは誰でも利用でき、中を覗くこともできるけれど、客室のあるエレベーターからその先の空間は宿泊者だけのものだ。ダイアナ妃が宿泊したというスイートとそこからの眺めや、ウディ・アレンが2年も住んでいた部屋が見られるのはすごく貴重だ。カーライルの持つ秘密を想像しながら見るとさらにわくわくする。
私は6年半前に京都のホテルで働き始めた。その頃は訪日外国人がどんどん増えている時期だった。3年前くらいからは新しいホテルが次々と建ち、既存のホテルはそれに対抗して客室や内装を改装していった。私のホテルもその流れに乗って改装し、周辺の高級ホテルでも同様だった。改装しなければ新しくてきれいなホテルに顧客が流れてしまうからだ。
だが一方、カーライルは1930年創業という古いホテルだが、創業当時の様子を残したまま今なおセレブに支持され続けている。ホテルの造りやデザインが貴重な物であり、そのことも理由の一つかもしれないが、カーライルは働くスタッフも特別なのだということを知った。
55年も働いているベル・キャプテンのダニーや、36年間コンシェルジュを務めたドワイトなど、勤続年数が20年を超えるスタッフが数多くいる。普通のホテル業界では、そんなに長くホテルで働いている人は珍しいだろうし、もしいても、サービスの現場からは離れているのが普通だと思う。
だがカーライルの彼らは、長い間セレブをゲストに迎え、カーライルの歴史を作った人達だ。皆陽気で親しみやすそうなスタッフばかりで、家族のようだと宿泊客に言われているのも納得できる。豪華な客室や設備はお金があれば作れるかもしれないが、宿泊客に覚えられ愛されるスタッフはそうはいかない。
カーライルはホテル自体も、宿泊客も、そして働くスタッフも普通ではない、特別なホテルだ。
その一端を、ぜひ映画からのぞきみてほしい。
映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』は、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸で現在上映中。
映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』予告編 |
詳細情報 |
■上映日程 ・テアトル梅田 8月16日(金)~ ・京都シネマ ・シネ・リーブル神戸 ■映画館 京都シネマ シネ・リーブル神戸 ■サイト |