伝統的な酒蔵での日本酒づくりを描いた川栄李奈さん初主演映画『恋のしずく』が全国公開中。今回、本作のメガホンをとった瀬木直貴監督にお話をうかがった。
物語の舞台は、日本三大酒処のひとつ、東広島市の西条。ワインソムリエを目指す農大生・詩織は、日本酒が苦手なのに、ひょんなことから酒蔵が実習先となる。自分の将来のため、と実習に力を入れずにいた詩織だが、日本酒の魅力、酒づくりに真剣に取り組む人々との出会いを通して成長していくストーリー。
本作を監督したのは瀬木直貴さん。『ラーメン侍』(’11)『カラアゲ★USA』(’14)などで食べ物の美味しさをスクリーンいっぱいに表現しつつ、その土地に住む人たちのあたたかな交流を丁寧に描く。本作は広島県の酒蔵、日本酒づくりを中心に築き上げられる人間ドラマだ。
瀬木監督が今回日本酒を取り上げた理由は、酒づくりが脈々と受け継がれる技術であったこと。「米と水、それを発酵させてつくる技術は2000年前ぐらいから、稲作がこの列島に伝わってからずっとあるもので、そこまでさかのぼって描きたい」という想いからだった。
酒蔵には杜氏(とうじ)と呼ばれる酒づくりの最高責任者がおり、10月から3月まで蔵人(くらびと)は杜氏のもとで酒をつくる。本作のために瀬木監督は日本各地の酒蔵を、半年以上もの時間をかけて見学。酒づくりの工程を見るだけでなく、蔵と町との関係に注目したという。「働いてる人、お酒に関係ないけど町に住んでいる人、それらの人々と酒蔵との関係を中心に勉強しました」と、丁寧な人間描写の秘訣を明かしてくれた。
映画初主演となる川栄李奈さんは、酒づくりにひたむきな詩織を好演。「これ、すごいいい顔でしょ」と、チラシにも載せられている麹室(こうじむろ)での川栄さんの表情を瀬木監督はしみじみと褒める。キャリアのある俳優陣、キャストに囲まれる現場でも、川栄さんはよく笑顔になっていたという。「今思うと、現場を自分がひっぱっていかなきゃいけないって責任感のあらわれでしょうね」と川栄さんの女優としての熱意を評価した。
また、舞台となる乃神酒造の蔵元役には大杉漣。今年2月に急死し本作が遺作となった。「あの方は本当に、現場の空気を大切にされる方でした。過度に周りを緊張させない。みなさんが芝居に集中できる環境づくりが非常にうまい」と話す瀬木監督。大杉さんは出番が終わるまで、一切、役者の待機場所には顔を出さなかった。小野塚勇人さん演じる、乃神酒造の息子・完爾と、親子で対立する役柄のため、芝居に影響が出ないようにとの配慮だそうだ。芝居に生きた俳優・大杉漣の姿がうかがえるエピソードだ。
本作の舞台、広島県は今年7月の西日本豪雨により被害を受け、今も多くの地域で支援が必要とされている。大杉さんの登場シーンを撮影した安芸津の酒蔵も被災した。「素晴らしい大黒柱、はり、中庭があって囲むように部屋が続いている。そんな素晴らしい文化財の床上まで泥がきて、畳を全部廃棄していた」と被害を知った瀬木監督。映画関係者を集め約40人でボランティアに向かい、酒造協会は別である西条の酒蔵の人たちも参加した。「映画の力ですよね」と映画が生んだ人のつながりを実感する監督。
さらに、安芸津で行われた復興支援上映会を、瀬木監督は楽しそうに振り返る。300人収容の上映を2回行い、どちらも満席、1時間ほどで整理券はなくなった。作品が地元の人たちに受け入れられるか不安だった瀬木監督だが、司会者に招かれ挨拶する時に「もうみなさん総立ちで、すごい拍手なんですよ。小屋が揺れる感覚でした」と驚きを語ってくれた。上映後に「安芸津の宝ができました」と喜びの声を聞き、握手攻めにあい、「あぁ、映画が一般の方にすごく近くなったなぁ」という感想を抱いたという。
映画は作るより、生まれると瀬木監督はコメント。映画は「日本酒を造る杜氏さんと同じようなもんなんだなぁと、米と水を合わせて温度管理だったり、導いていくという感じ」と語る。もともとの企画や脚本に、天候などその場の状況が合わさって生まれるのが映画。「だから、映画を作った、という感覚より、俳優さん、支援してくださる方々、いろんな諸条件のなかで、自分の手でかたちを整えて、関わる人がみんなで作ってる、みんなで関わって生まれていくものだと思ってます」と、語ってくれた。
映画『恋のしずく』は10月20日(土)より全国公開中。関西では大阪・十三の第七藝術劇場などの劇場にて上映中。
映画『恋のしずく』予告編 |
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■サイト ・映画『恋のしずく』公式サイト |