映画『さよならも出来ない』が、京都、大阪、東京での上映を経て、10月7日(土)より神戸・元町映画館にて上映開始。松野泉監督、キャストの土手理恵子さんと上野伸弥さんに、制作秘話や心境について話を伺った。
映画『さよならも出来ない』は、別れてからも同居を続ける男女の人間関係を描いた作品。家の中に境界線を引き、同居を続ける元恋人の香里(野里佳忍)と環(土手理恵子)。周りから関係をはっきりさせた方がいいと言われる2人は、なぜ離れられないのか。
映画『ハッピーアワー』の録音も務めた松野監督が、登場人物の微妙な感情を丁寧に描いている。
同作は、京都から新たな映画を発信する人材育成プロジェクト「シネマカレッジ京都」のワークショップから生まれた。
大阪や東京での上映では、インディーズ映画ながら満席の回が出るなどスマッシュヒットを記録。主人公・環を演じた土手さんは、本作で「第17回TAMA NEW WAVE」ベスト女優賞を受賞。環に思いを寄せる会社の同僚・浩を演じた上野さんの好演も光る。
「3年前に別れた元恋人同士が、境界線を引いた家に同居し続けている」この奇妙な設定は、主人公・環を演じた土手さんが男友達とルームシェアをしていた話が基になっている、と明かす松野監督。そこに「別れた男女」「境界線」という意外なスパイスを追加した。監督自身の結婚生活で感じたことも影響しているという。
「夫婦間で『マンネリ』って問題が割とリアルにあって、恋愛期が過ぎて別れているような状態でも、子供のためとかいろんな事情で同じ家で暮らし続けている。その状況のおかしさみたいなものが常にあって、それを物語にしたら面白いんじゃないかなと。別に僕が夫婦の危機ってわけではないですけど(笑)」と笑う監督。
ワークショップで感じたことも設定に生かしたという。
「ワークショップで参加者同士の印象についてアンケートとってみると、こっちが思ってた関係性と違ってたのが印象深くて。若い人って仲よさそうに見えても、それぞれがあまり立ち入らない。素直に自分をさらけ出して関係性を作っていくことって、今は難しいのかなって」と振り返った。
「じゃあ、もう部屋の中に線を引くぐらいの状況を作ってみたら、人間性の面白さや不思議な部分、現代人特有の人との関係性っていうのが見えてくるんじゃないかなって思ったんです」と監督。
その奇妙な設定を最初に聞いたとき、キャストの2人はどう思ったのか。土手さんと上野さんにを聞いてみると、全く違う反応が。
土手さんは「私は設定に違和感を感じたことがなくて。まぁ、あるかなって」とリアリティを感じたと答える。対して上野さんは「なんで別れたのに一緒に暮らしてるんだろうって。不思議な感じです」と理解しづらいとの反応が。
松野監督は観客からの反応として「サバサバした女の人は、あんな男さっさと捨てるべきっていう人もいますしね」と言及。性格や恋愛感の違いで、作品の受け取り方が変わるのも本作の魅力だ。
ほぼ当て書きの状態で書かれた脚本を受け取った土手さんは、自身と役柄を重ね「言葉にすればはっきりさせられるのに、それができないっていうところに共感できました。心の中で思っていることがたくさんあっても、それを全部言葉にするかって言われたらそうじゃないかな」と共感したポイントを振り返る。
上野さんは演技中に感じたこととして「何回か演技をしているうちに、これは自分では言わないって思っていたセリフが、スッと言えるようになっていました。役に似通っていたのかな」と話してくれた。
映画『ハッピーアワー』の録音やミュージシャンとしても活動中の松野監督。音へのこだわりも忘れてはいけない。
印象的なのが、香里と環が暮らす部屋の上の階から聞こえる子供が走る音。セリフでも「とてとて」と表現されているこの音について松野監督に聞くと、「実は本当の騒音だった」と裏話が飛び出した。
松野監督は、この状況を「アンラッキーのラッキー」と語る。
「ノイズが作品の中に必然性のあるようなかたちで取り込めるってラッキーだなと。深刻な会話している2人の上で子供が走り回っているって、シナリオで絶対書けないですから。でもそういうことって世界に溢れていて、それが豊かさに繋がるはずなんです」と語った。
撮影時に騒音が気になったと話す土井さんは「集中しづらくて不安な気持ちでお芝居していたんですけど、作品を見たら生活感というか、あの音から広がる世界観を感じられたのでよかった」と話し、上野さんも納得の様子。
これから観る人には、作品の奥行きを表現するポイントといえるこの音にも注目してほしい。
映画『さよならも出来ない』は、神戸・元町映画館で10月7日(土)から10月13日(金)まで1週間公開。毎日18時50分から。
映画『さよならも出来ない』予告編 |
詳細情報 |
■上映日程 10月7日(土)~10月13日(金) ※各日18時50分~ ※10月8日(日)、10月10日(火)には、鑑賞後に監督たちとの座談会を実施 ■映画館 ■サイト |