大阪・梅田ロフトの地下1階に構えるテアトル梅田。単館系作品を中心に魅力的な作品を上映し、多くの映画ファンに親しまれてきた。
最近では、アニメーション映画『この世界の片隅に』(2016年)を全国で最長となる287日間上映したことで話題となった。
今回は、そんな同館の運営を手掛ける古野支配人にインタビュー。
劇場の歴史や本作でのロングラン記録の背景、映画にかける思いを伺った。
※『この世界の片隅に』上映最終日の様子についてはこちらの記事をご覧ください。
―こちらのテアトル梅田は1990年に開館され、今年で27年目になるそうですね。
古野 はい。現在の関西では一番古いミニシアターだと聞いています。
その少し前から単館系作品が、いわゆる黄金期を迎えていて、その流れを受けてオープンに至りました。
―『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1986年)や『パリ、テキサス』(85年)などが人気を集めましたよね。様々な上映作品の中で、一番のヒット作は?
古野 動員数や興行収入の面から言うと、『アメリ』(2001年)ですね。
大阪では当館だけの上映でしたし、リピーターも多かったようです。
当時はチケットの先売りがなく、行きたかった回が満席だったら、次に並ぶしかない。
それでもう、皆さん躍起になって観ておられたそうです。
同じように、人気になった作品としては『トレインスポッティング』(1996年)もありましたね。
そして最近、スマッシュヒットしたのが『この世界の片隅に』でした。
―これほど爆発的にヒットしたのは久々だったんですか?
古野 そうですね。
映画好きだけにとどまらず、ここまでいろんなお客様に広まって話題になったのは、久しぶりでした。
―そうすると、普段はあまり見かけないようなお客様も?
古野 いらっしゃいました。
この作品は広まり方がすごく面白くて、時期によって客層が変わったんですよ。
クラウドファンディングで制作されたこともあり、最初は元々応援していた方が多く来られたんですね。
原作や片渕監督のファンなど、本作の存在を知っていた方が「公開が待ち遠しかったよ」って。
そこから一気に口コミで広がって、コアなファン以外の映画好きの方にも浸透し、最終的にはテアトル梅田の存在を知らなかったお客様やアニメとは普段縁が薄いシニアの方々まで……。
その間にリピーターさんも増えて、「(観に来るのが)もう○回目です!」って教えてくれるお客様もいらっしゃいました。
―ここ数年、ある映画を何回観たかというのが誇らしく言われる時代になりましたよね。
古野 その傾向はすごく感じます。
また、テレビでただ流行っていると聞くより、口コミや身近な人から勧められるほうが、作品を選ぶ決め手になることも多いようです。
そういう流れにも合って、ヒットしたのかなと思います。
―テアトル梅田さんは全国最長となるロングランを達成していますが、何かこだわりや思いがあったんでしょうか?
古野 ニーズが大きかったというのが、上映し続けた一番の理由ですね。
もう本当にたくさんのお客様に来ていただいて、「やめるわけにはいかないな」と。
当館はスクリーン数が少ないので、2時間少しある長尺の作品を毎日上映するのは大変でしたが、「まだ終わらないでくれ」っていう声がすごく多かったんです。
それで、スタッフと力を合わせて必死でつないでいました。
―作品自体がヒットすることは嬉しいですが、作品に頼り切るのではなく、劇場としてもお客様に来てもらうためにそういった取り組みをされているのでしょうか。
古野 はい。今でも「ロフトの地下に映画館があったの?」って驚かれる方がいらっしゃいます。
ですから、どんなきっかけでもいいので、テアトル梅田を知っていただきたいんですよね。
そして来館された際には、「次、この映画面白そう」って思ってもらいたい。
そのために、ロビーにたくさんチラシを置いたり、予告を流したりしています。
スタッフの趣味や特技を生かした、手作りのPOPやコメントも出しているんですよ。
―確かに、こちらの装飾はバリエーションがあって、こだわっているんだなという印象がありました。
古野 ありがとうございます。
ここで上映している作品のほとんどは、やっぱりテアトルらしい作品ですし、ありがたいことに当社の選球眼を信じてくださるお客様も多いのですが、やはり劇場ごとに客層の違いはあります。
だからこそ、宣伝がやっぱりすごく大切なんですよ。
作品をどうやって当館のお客様と結びつけ、実際に観たいと思わせるかを考えるか。日々工夫していますね。
―劇場側からお勧めするのとは逆に、お客様の声をラインナップに反映させることはありますか?
古野 結構先のスケジュールまで決まっているため、なかなか難しいのですが、いただくご意見はすごく貴重なので、何かの形で生かしたいと考えています。
例えば、特集上映をすることになったらリクエスト作品を組み込めたらいいなと思いますし、お客様から注目の監督さんを教えていただいたら、今後その方の作品を狙えるよう編成部に伝えることはありますね。
―お客様との距離が近いんですね。
古野 はい。それが、当館の良さだと思っています。
また、スタッフとお客様だけでなく、お客様同士のつながりも大切にしたいと考えています。
常連さんたちはお互いに「よく見かけるな」と分かっておられるので、そういう方々をつなげたい。
実際、仲のいい常連さん同士もいらっしゃるんですよ。
お客様とお客様をつなぎ、居心地のいい空間づくりができればと思っていますね。
―ちなみに、古野支配人はこの9月からシネ・リーブル梅田の支配人を兼任されているそうですが、2館の運営に携わる上で何か違いはありますか?
古野 まず設備面で大きな違いがありまして、テアトル梅田が2スクリーンなのに対し、シネ・リーブル梅田は4スクリーンです。
扱える作品数は多いですし、ジャンルも様々。
そのため、作品自体やジャンルが好きで来られるお客様が多いんですよ。
一方テアトル梅田は、作品数は少なくても4~5週間かけてしっかり上映していて、「テアトル梅田でじっくり観たい」と劇場自体にお客様がついてくださる傾向がありますね。
―それぞれ棲み分けをしていらっしゃるんですね。梅田には他にもたくさん劇場があり、中にはシネコンもあります。最近ではシネコンでも単館系作品を上映することがありますが、それとの差別化についてはどのようにお考えですか?
古野 それぞれ良い部分があると思うんですよね。
シネコンだったら、1度に何百人も入れるような大きなスクリーンで迫力ある映像を楽しめる。
IMAXや4DXで、より臨場感ある映画体験ができることもあります。
一方ミニシアターは、席数が少ない分、観客全員が一体となって鑑賞できた満足感を得やすいです。
また、上映作品数が限られているため、こだわった宣伝や上映ができる。
作品ごとに、上映に適した規模は違うと思うので、そこでうまく棲み分けできたらいいですね。
―映画と映画館の相性って、今後の課題かもしれないですね。
古野 そうですね。
また、規模が大きいシネコンで観る映画は特別感があるので、デートや家族の娯楽といったイベントとして行くとより面白いと思うんですが、一方でミニシアターは定期的に楽しめるものだと考えています。
映画を文化として触れる、というと少し大げさかもしれませんが、習慣的に観ることで日常がちょっときらめいたり、人生にプラスになるような発見があったり……。
そういう違いからも棲み分けできたらいいですね。
そうしてお互い助け合って、映画界全体を盛り上げていければと思っています。
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