公開中の映画『ブランカとギター弾き』のスマッシュヒットを記念し、9月8日(金)シネ・リーブル梅田にて舞台挨拶が開催され、同作を手掛けた長谷井宏紀監督が登壇。リラックスした雰囲気で集まった観客からの質問に答えた。舞台挨拶の前には長谷井監督にインタビューを行い、制作についての裏話などを伺った。
映画『ブランカとギター弾き』は、写真家としても活躍する長谷井監督の長編デビュー作。フィリピンを舞台に、スラムで暮らす孤児の少女・ブランカが母親をお金で買うことを思いつき、盲目のギター弾き・ピーターと共に旅に出るロードムービー。日本人初となるヴェネチア・ビエンナーレ&ヴェネチア国際映画祭の出資で制作された作品で、2015年に開催された第72回ヴェネチア国際映画祭でマジックランタン賞、ソッリーゾ・ディベルソ賞を受賞した。
2015年に完成し、すでに60ヶ国以上の映画祭で上映されている本作。観客の反応について長谷井監督は「作品を観た人があったかい感じで迎えてくれる。笑ってほっこりしてくれるのが嬉しいし、楽ですね」と笑顔で話した。また、母国でもある日本での公開については「いろんな映画館で上映していただいているので嬉しいです」と現在の心境を明かした。
脚本は長谷井監督自らが手掛け、出資企画が通った段階で一気に書き上げた。長谷井監督は「朝の5時ぐらいにピーターとブランカの会話を書いているとき、脚本を書きながら涙が止まらなかったんです」と執筆中を思い出し話した。長谷井監督は泣きながら書いていたシーンの撮影でも、やっぱり泣いてしまったと明かし、「脚本を書いているときに泣けても、現場で泣けなかったら観客には何も伝わらないはず。観客に届く感覚はあった」と力強く語った。
主人公・ブランカを演じるのは、YouTubeで人気を集めていたサイデル・ガブテロを起用。演技初挑戦ながらもナチュラルな演技が観客を惹きつける。彼女について長谷井監督は「サイデルは小さな島の出身で、ストリートチルドレンの感覚が全くなかった。撮影前に子どもたちがいっぱいいる公園で遊ばせながらストリートチルドレンの感覚を掴んでもらいました」と独特な演技指導を行っていたことを明かした。物語の後半、ブランカが小屋に閉じ込められるシーンでは、サイデルさんの迫真の演技が光る。長谷井監督はこのシーンについて「彼女があの小屋に来たときには、もうその状態になってました。ずっと叫び続けるぐらい入り込んでいたので、カットがかかるとスタッフみんなで彼女を抱きしめて、ブランカの精神状態から解放させました」と撮影の裏側を明かしてくれた。
ブランカと共に旅をする盲目のギター弾き・ピーターを演じるのは、実際にフィリピンの街角で流しの音楽家として活動していたピーター・ミラリ。彼は長谷井監督が以前手掛けた短編映画にも出演している。出演のオファーに関して「ピーターは連絡先をもってないので、ピーターを探すところからスタートしました。結局、フィリピンに入ってから1ヶ月ぐらい見つからなかった(笑)」と当時の苦労を明かした。残念ながら、ピーターは本作の完成後に突然の病により逝去。長谷井監督は「役柄とほとんど変わらない。自分の思うピーターを書いたけど、実際にピーター自身が体験していることとかぶってることが多かったんですよね」とピーターを思い出しながら話した。
「そのあたりにいるお巡りさんも出てくれた」と長谷井監督が明かすように、本作に出演者の多くは路上でキャスティングされている。ブランカと重要な関わりをもつラウルやセバスチャンも路上でオファーした。路上で出演を決めたキャストが撮影時に急遽来れなくなるアクシデントがあったそうで、住んでいるところをメモしていくキャスティングボードにまとめるなど工夫も。最終的には「現場にカメラを早めに置いて、野次馬が集まってきたところを狙ってキャスティングしていました」と明かした。ギャラはその場で支払っていたそうで「セバスチャン役の男の子の家族は、初日から比べると服装がわかりやすく変わっていきましたね(笑)」というエピソードも。
海外での撮影には驚かされることが多かったと話す長谷井監督。撮影中、壁の色が違うと現地スタッフが突然壁の色を塗り替えたり、違うクルーに撮影場所を奪われたり、と海外特有のアクシデントに数多く遭遇したが、日本人にない感覚を味わうことができ新しい発見ができたとポジティブに話す長谷井監督。特に面白かったと話してくれたのが、撮影スタッフが70人いたという話。全く仕事をしていない人もいたそうで長谷井監督は「撮影中もその人のことがずっと気になってた」と笑った。さらに、アフレコには30人ものスタッフがいたそうで、全員が現場スタッフの親戚だったそう。「映画づくりはまさにお祭りです」とさまざまな人を巻きこんで作り上げられた作品であることをアピールした。
ピーターから撮影時にもらった手紙を、映画の上映の際に胸ポケットに入れている長谷井監督。この日もその手紙を胸ポケットにしまっており、インタビュー中に「実は名前のところがコーケイになっているんですよね」と笑いながらその貴重な手紙を見せてくれた。
インタビュー後、長谷井監督は舞台挨拶に登壇。上映後での舞台挨拶だったため、観客からの質問を受け付けることに。セバスチャンについての質問があった際には、ラストシーンの秘密が明かされた。「ラストシーンがクランクアップのシーンで、脚本ではセバスチャンはいない設定だったがクランクアップのときにはセバスチャンにいてほしい思って、急遽入ってもらいました」と長谷井監督が明かすと観客から驚き声が。
舞台挨拶後にはサイン会も実施された。長谷井監督は観客と話しながら丁寧にサインしていた。サインをもらった参加者の女性は「セバスチャンがかわいい。ブランカもすごく素敵な表情をしている」と本作の魅力を話してくれた。作品同様、あったかい雰囲気の舞台挨拶イベントとなった。
映画『ブランカとギター弾き』はシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸にて公開中。MOVIXあまがさきでは9月23日(土・祝)より公開。京都シネマでも公開予定。
映画『ブランカとギター弾き』予告編 |
詳細情報 |
■上映日程 シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸 上映中 MOVIXあまがさき ■映画館 シネ・リーブル神戸 ■サイト |