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日本未公開の面白い作品を届けたい―京都ドーナッツクラブ代表・野村雅夫さんが語るイタリア映画の多様さと字幕翻訳の舞台裏

京都シネマで6月24日(土)より「映画で旅するイタリア2017」が開催へ。日本未公開の最新イタリア映画が3作品上映。主催の京都ドーナッツクラブ代表でFM802DJの野村雅夫さんにお話を伺った。

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野村雅夫さん

「映画で旅するイタリア」は京都ドーナッツクラブが主催するイタリア映画をテーマとした映画祭。2015年から開催されており、今年で3回目を迎え、渋谷アップリンクと京都シネマでの開催となった。
京都ドーナッツクラブは、2005年結成。イタリア映画の買い付けから字幕制作・上映、翻訳出版まで、イタリア文化を多角的に紹介してきている会社で、FM802DJの野村雅夫さんが代表を務めている。

同企画の目的について、「もともと『裏イタリア映画祭』をしたかった」と語る野村さん。イタリア映画祭は、毎年東京と大阪で開催されている映画イベントで、前年あるいは一昨年イタリアで公開されたものが上映されており、毎年12本ほどセレクトされている。だが、野村さんの目から見て「まだまだ面白い映画がもれている」という。そこで「裏イタリア映画祭」としてその補完的な役割を担っていきたいと語る。
過去2回の上映での反応については「普通では観ることのできないものが上映されるということで評価をいただいている。1本でもこんなのがありますよって、ジャンルにこだわらず提供していきたい」と語る野村さん。「1本でも劇場で上映したり、DVDにしたり、鑑賞の機会を増やしたい」といい、このイベントに来れない人や遠方の人にも、近くの映画館で上映してもらえたり、気軽に手に取ってもらう機会が作れたらと話す。

ちなみに今年の「映画で旅するイタリア2017」の上映作品は『アラスカ』(15年/125分)、『ラテン・ラバー』(15年/114分)、『やつらって、誰?』(15年/95分)の3作品。

野村さんはかつてイタリアに留学したとき、シルヴァーノ・アゴスティ監督と知り合ったといい「彼はキャリアも長く、評価も高く、いわゆる巨匠と呼ばれるような人だったけど、インデペンデントな作家だったので映画の権利はすべて彼が持っていた。だから、権利の売買も彼と個人的に連絡するだけでよかったのでやりやすかった」と振り返る。もちろんそれ以外のケースでは、権利問題や金額的な交渉でなかなか上手くいかないこともあるというが、「今年はおおむね自分たちの提供したい映画を選ぶことができた」と胸を張る。

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『アラスカ』

『アラスカ』はパリの高級ホテルで働くファウストとモデルの卵のナディアが織りなすラブストーリー。ふとしたことでホテルの上客に傷害事件を起こし刑務所に送られるファウスト。出所後、ナディアに再起を誓うという物語だ。監督のクラウディオ・クペッリーニはカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した映画『ゴモラ』(08年)のテレビシリーズ版から出てきた若手の監督。以前から注目していたという野村さんは、主人公のファウストを演じるのがエリオ・ジェルマーノと知って興奮したいいう。「イタリア映画祭に常連のはずの彼が今回入ってなくて、うちで上映できるということでうれしかった。それぞれの構図が決まっていてシリアスな雰囲気がカッコイイ」と話す。

ラテン・ラバー
『ラテン・ラバー』

『ラテン・ラバー』については、「クリスティーナ・コメンチーニ監督は、お父さんも戦前から活躍する映画監督。映画一家に育った人で、そんな彼女が撮るイタリア映画のオマージュがよかった」とPR。マルチェッロ・マストロヤンニを想定したであろう国際的な人気俳優の死後10年後にその妻や愛人たちや、その娘たちが一堂に会したとき新事実がどんどん明らかになっていくというストーリー。女同士の面子や争いになっているところも面白かいという。「すでに亡くなっている主人公を周囲の人間が思い出すという『市民ケーン』(41年)のような構造を彷彿とさせるし、この作品に登場する劇中劇というのが如何にも当時のヨーロッパ映画にありそうな雰囲気が醸し出されていて、往年の映画ファンにも満足してもらえるのでは」と呼びかける。

奴らって、誰?
『やつらって、誰?』

『やつらって、誰?』は主演のエドアルド・レオとマルコ・ジャッリーニが今の旬な俳優で、そんな二人が織りなす凸凹バディムービ―に仕上がっている。ちなみにジャッリーニは、東京国際映画祭で観客賞を受賞した『神様の思し召し』(16年)に主演していて、日本でも顔の知られた存在。『ルパン三世』のような騙し、騙されという痛快さも観ていて楽しいものになっているという。「主人公の詐欺師が豪快なハッタリで様々な人を騙すのがおかしくて面白い。テレビのプロデューサーに扮して、映像業界の裏側みたいな権力を笠に着るところなんかが笑ってしまう」と見どころを語ってくれた。

最後に、京都ドーナッツクラブが手がけるイタリア映画配給についての話も。京都ドーナッツクラブではひとつの作品を複数人で翻訳しているといい、「それが強みだと思っている」と話す。字幕をつける場合は、スクリーンに表示される文字数の制限の関係で吹き替えよりも情報量が限定されるため、言葉のニュアンスや意味の取捨選択が翻訳家の解釈にゆだねられる。そこで複数人の様々な視点を入れることによって、誤訳を防ぎブラッシュアップに繋がげているという。翻訳家集団としてそれぞれが意見を交わしているときが一番楽しかったりするとのこと。
ちなみに去年上映した『越境の花嫁』は最も苦労した作品のひとつ。移民問題をテーマにした作品で、アラブの10代の男の子が父親と一緒に海を渡り命からがらイタリアに入国して、そしてスウェーデンを目指すというドキュメンタリー映画。主人公の男の子がアラビア語でラップを歌うのだが、その字幕が難しかったという。当然イタリア人もアラビア語を理解していないのでイタリア語字幕がついているのだが、それがラップなのにサラッと意味だけを流す字幕に違和感を覚えた野村さん。「映画の要所でラップシーンが披露されるのだから、ラップもちゃんと韻を踏むことで、作品そのものを尊重したかった。何ならそのまま日本語でラップを歌えるくらいを目指そうとメンバーで決めた」と話し、歌の情感や韻をなるべく日本語で表現できるように工夫したという。
また、今回『やつらって、誰?』に登場する「arte(アルテ)」という単語を、本来なら「芸術」と訳すのだが、予告編では敢えて「映画」と訳してみた裏話も。「ただ単に翻訳するのではなく、映画のシチュエーションに合わせて表現を変えていくのも重要」と話す。

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今回、初めて京都シネマでの上映が決まったことについて「愛好家が多く、映画好きが集まる映画館という印象があるので、京都に身を置く人間としては非常に嬉しい」と語る野村さん。また支配人から「今までなかっただけで一定数のヨーロッパ映画のファンは必ずいる。以前フランス映画の上映をした時も観客から『待ってました』という声をもらったので、イタリア映画でも必ず心待ちにしてくれている人がいるはず」と言ってくれたことが励みになっているという。

最後に今後の展望についてお伺いすると「紙媒体でイタリアの総合誌のようなものを作りたい」と話す野村さん。「よくインタビューを受けると『イタリア映画の特徴は』という質問を受けるだが、逆に『日本映画の特徴は何ですか』と聞かれたとき明確に答えられますか、と思う。今回の3本もそうだが、一口にイタリア映画と言っても多様ですよということを伝えたい」と意気込む。「日本映画と同じようにジャンル映画、娯楽映画、作家性の強いもの、アートフィルムまでイタリアでも沢山作られている。その情報があちこちに分散しているので集約できる雑誌のようなものを作りたい」とのことだ。
「映画に限らず食事、サッカー、ファッションそれぞれのコンテンツ自体はみんな好きなことが多い。それらは細分化されてしまっているのだけど、全部イタリアという国の文化が生み出しているもの。僕自身趣味が雑多なので、例えばサッカーが好きな人も映画を見たり、映画好きが別のものにも興味を持ってくれたりするような環境になってほしい。細分化されたものを横断できる情報の出し方、総合誌の役割が必要なのでは」と語ってくれた。

「映画で旅するイタリア2017」は京都シネマで6月24日(土)から30日(金)まで開催予定。料金は一般1,800円、シニア1,100円、学生1,000円、障がい者1,000円。6月24日(土)、25日(日)、29日(木)は上映後にトークショーが予定されている。

映画で旅するイタリア2017 予告編

詳細情報
■開催日程
6月24日(土)~6月30日(金)
 ・6月24日(土) 19時40分~ 『やつらって、誰?』※アフタートーク付き
 ・6月25日(日) 19時40分~ 『ラテン・ラバー』※アフタートーク付き
 ・6月26日(月) 19時40分~ 『アラスカ』
 ・6月27日(火) 19時40分~ 『やつらって、誰?』
 ・6月28日(水) 19時40分~ 『ラテン・ラバー』
 ・6月29日(木) 19時40分~ 『アラスカ』※アフタートーク付き
 ・6月30日(金) 19時40分~ 『やつらって、誰?』

■料金
一般1,800円、シニア(60歳以上)1,100円、大学生以下3歳以上1,000円

■映画館
京都シネマ
京都市下京区烏丸通四条下ル水銀屋町620番地COCON烏丸3F、TEL 075-353-4723

■サイト
映画で旅するイタリア2017
映画で旅するイタリア2017 旅のしおり
京都ドーナッツクラブ