2015年8月、あべのアポロシネマは謎の黄色い生物にジャックされていた…。
特設会場の壁一面の無数のミニオン達に、訪れた女の子たちもミニオンカラ―の黄色い歓声をあげる。彼らが占拠した壁の前にはエリザベス女王の椅子が設置され、そこで写真撮影ができるという仕組みだ。
そして映画館でのイベントと同時に、近隣の商業施設天王寺mioもミニオンカラーに染まっていた。こちらではミニオングッズの販売や催事が行われ、天王寺の街全体がミニオンズテーマパークと化したのだ。その様子はすぐさまSNSやブログで拡散され、あべのアポロシネマは『ミニオンズ』での観客動員数全国1位という異例の快挙を達成した。
そして来る2016年8月、天王寺はまたもや可愛い動物達であふれかえることになる。今年は昨年の『ミニオンズ』とのコラボの動きをさらに拡大させ、『ミニオンズ』の制作スタッフによる最新作『ペット』のキャラクター達が、天王寺の街を舞台に大活躍する。
今回の企画はアドベンチャー仕立てだ。あべのアポロシネマにあるケイティのおうちから抜け出してしまった主人公のマックスとデュークに会うために、天王寺の街で彼らを探すツアーに出るのが私たちのミッション。天王寺のあちこちにある手がかりポイントに立ち寄りながらマックスとデュークの行方を追う。
聞いているだけでわくわくする内容だが、よく考えてみると、私たちはこのようなイベントが誰の手によって企画され、運営されているのかということをあまり知らない。魅力的なイベントの立役者は同じくらい魅力的に違いない。
そこで今回は、表に出ることのない天王寺タイアップイベントの仕掛人、クリティカ・ユニバーサルの四戸俊成さんに取材。『ペット』のイベント会場制作過程の裏側をお届けする。
2016年8月2日の22時過ぎ、あべのアポロシネマの特設会場では、着々と『ペット』のタイアップイベントの準備が進められていた。レイトショー上映中の薄暗いあべのアポロシネマの一角に煌々と明かりが灯り、なにやら賑やかな声が漏れている。
「足跡足らないね……」
「でもデュークの歩幅ならこれで足りるんじゃないですか?」
「エレベーターから降りた人がこれ(足跡)に気づいて何だろう?と思うでしょ。そこから視線が動いて、少し歩いたここでセンサーが反応して、吠え声が聞こえて欲しいんです」
等々。エレベーターから特設会場に続く通路に大小の犬の足跡が点々と続き、それを囲んで、ディレクターの四戸さんたちが話合っている声であった。足跡の間隔から、犬の鳴き声が聞こえるタイミングまで、全て四戸さんが鮮やかに決断を下していく。
足跡の問題が片付くと、四戸さんは会場内でライティングのチェックに立ち会う。私も四戸さんに連れられ会場の中へ。
昨年ミニオンで埋め尽くされていた会場は、今年は『ペット』の主人(犬)公マックスがその飼い主ケイティと共に暮らす部屋に様変わりしていた。部屋に遊びに来ているマックスの仲間たちが、赤いソファの上で出迎えてくれるという設定だ。ソファの後ろにある巨大な窓の外には、あべのハルカスをはじめとする天王寺の街が広がり、部屋の中にいるはずのマックスとデュークもなぜか窓の外に……。
そう、このあべのアポロシネマの会場は、ケイティの部屋で写真を撮れるフォトロケーションであるとともに、マックスとデュークが天王寺の街に飛び出してしまったことを示唆する舞台でもあるのだ。
ソファに当たる電球の向きの最終位置をライティングの担当者と確認した四戸さんは、すぐに窓の裏側へ。そこで今度は動画担当チームと、窓の外側で流れる天王寺の街並みの調整に入る。実はこの天王寺の街並みはプロジェクターで壁面に映写されており、数分間隔で天王寺の空の24時間を映した映像を繰り返す仕組みになっている。会場に何度も来た人だけが分かるちょっとしたサプライズだ。
四戸さんと動画担当チームは、ここで窓ガラスを通した景色の質感を忠実に再現しようとしていた。パンフレットが入っていたプラスチックケースや、資材を包んでいた透明のナイロン袋をプロジェクターのレンズにあてがい、窓ガラス越しに見える景色を作り出していく。使えるものは何でも使い、ディティールの作りこみを怠らない。
常に現場のあちこちを回り的確な指示を出していく四戸さんの姿は、まるで巨大な厨房を回り鍋の味を確認していく料理長のようだ。
「僕の頭の中にはすでに完成図が出来上がっています。そして実際にやってみてから、こっちの方が良い、これも良いをどんどん更新していく。ディレクション業は現場でリアルタイムでやっていかないと、作業が止まってスタッフさんに迷惑を掛けてしまいますから」と話す四戸さん。
しかし同時進行する作業がいくつもあるにも関わらず、四戸さんはすべての作業の細部にこだわる。
「ディティールにこだわるのは、想像を超えたいからです。想像を超えるものに出会った時、人の心が動きます。つまり感動するということです」。
23時30分、四戸さんたちが作業を開始してからおよそ5時間半で会場が完成。制作チームは完成した会場で最初にテスト撮影をしてから、各々の帰路に付く。力仕事からディティールを作りこむ作業までを終電間際まで取り組んだにも関わらず、皆さん楽しそうに帰っていくのが印象的だった。
四戸さんも笑顔で「またよろしくお願いします」と挨拶を交わす。魅力的なイベントの立役者は魅力的であるに違いないと予想して取材に挑んだが、私の想像は四戸さんに簡単に超えられた。正しくは、イベントの立役者も、彼が集めるメンバーも魅力的なプロフェッショナルだった。楽しみながらプロの仕事をする彼らが手掛けているからこそ、人の心を打つイベントを作り上げられるのだ。
今回はあべのアポロシネマ会場のみのレポートとなってしまったが、クリティカ・ユニバーサルのメンバーが手掛けるイベントは、8月31日(水)まで天王寺TSUTAYA、天王寺mio、天王寺公園内ペットパラダイスDXの4カ所で開催中。
夏休みの思い出作りにぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。
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■企画日程 ~8月31日(水) ■サイト |