昔ながらの2本立て上映の二番館ながら、時代に合わせた展開を模索する映画館が神戸にある。新開地に拠を構えるCinema KOBEの支配人・木谷明博さんに話を聞いた。
神戸の新開地は、もともと映画の街として知られている。東京の浅草とよく比較されるほどの文化の街で、かつては多くの映画館が軒を連ねていた。
Cinema KOBEは、その新開地に残る、いわば二番館の映画館。最新作ではなく、公開から少し時間が経った映画作品を中心に上映している。隣にはポルノ映画上映館も併設。
一般1,500円、女性は1,000円で2作品観られるのがうれしい。一般的な二番館のイメージに比べてきれいな館内も魅力だ。
もともとは1957(昭和32)年に「新劇会館」という名称の映画館としてスタートした。途中で「シネマしんげき」に改称。
阪神・淡路大震災でビルが建て替わり、そして2010(平成22)年からCinema KOBEにリニューアル。「シネマしんげき」の経営をしていた会社が映画館の経営を分離した時、勤めていた映写技師が代表となり、銀行の融資を受けながら新たに「Cinema KOBE」として再スタートしたのが最初だ。
当時木谷さんは、シネ・リーブル神戸で勤めていた。映画館同士の連携を進める中で、Cinema KOBEに足を運ぶようになり、当時の支配人とも親しくなる。その後、シネ・リーブル神戸での雇用期間がいったん終了するタイミングで、Cinema KOBEの映写技師として誘われたのをきっかけに勤めるようになったという。
ところが勤めだすとほぼ同時に、前の支配人が死去。さまざまな業務が未経験のまま、支配人に就任することになった。
「悲しむ余裕もなかったですが、とにかくやってこうと覚悟を決めました」と振り返る。
前任から引き継いだ当初はメジャー作品を2週間単位で上映していたが、途中から1週間単位に切り替えた。映画好きの方からの「毎週新しい作品が見られるなら毎週通うのに」という声もあり、そうした方にもっとたくさんの作品を届けようと考えたという。
しかしそのためには、今までの2倍の本数の映画が必要になる。そこで、アート系やインディペンデント系などの作品の上映にも乗り出した。シネ・リーブル神戸にいる時にも、神戸では上映しきれない作品が多かったことを感じていたので、そうした作品をできるだけ上映できればと決意した。
上映スタイルは、いまでもずっと2本立て連続上映。一般1,500円で2作品が鑑賞できる、昔ながらのスタイルだ。「お客が入らなさそうなアート系作品には、セガールの映画をくっつけたりしてました」と笑う。
支配人就任後、何とかいけるかな、と手ごたえを感じ始めた途端、映画業界のフィルム撤退の報が入る。ほとんどの映画作品がデジタルで制作されることで、デジタル映写機を導入しないと新作がかけられない状態になり、危機に陥ってしまう。だが様々な幸運が重なり、デジタル映写機を無事導入。今後も継続して新作を上映できるようになった。
121席のシアター1 |
Cinema KOBEでは今の時代に合わせて、ツイッターでのPRも精力的に展開。「東の新橋文化劇場さん、西の塚口サンサン劇場さんといったツイッターの人たちが面白くて、いいなと思ってました。うちでもなにかツイッターならではの情報を届けることができるんじゃないかと思い、試行錯誤しながら取り組んでいます」と話す。
「お客さんの声が見える時代になってきたので、むしろうちのような個人館の方が、そういうコミュニケーションを密に撮りながらいろんな展開ができるようになったんじゃないかなと思ってます」と期待を寄せる。
2作品の組み合わせの妙も、Cinema KOBEの特徴の一つだ。先代の時は、メジャー作品とマイナー作品の組み合わせ、というのが基本で、大胆な組み合わせが受けていたという。
それを引き継ぐべきか悩んだが、これからは映画のジャンルごとにターゲットをしぼっていく見せ方の時代だろう、と考え、毎回設定したテーマに沿った2作品の組み合わせを増やしていった。たとえば2014年2月には、『パシフィック・リム』と『オーガストウォーズ』という巨大ロボット映画2作品を2本立てに。「反応も良かったし、あの企画はやっていてとても楽しかったです」と振り返る。
一方で、時代の流れに沿った悩みもある。以前は、自分が知ることのなかった映画への不意の出会いを楽しめたものだったが、「最近はそういう傾向が減ってきましたね」という。「事前に情報も調べられますし、好みの作品だけを選んで観ていく方が増えてきました。悪いことではないのですが。いままで2本立ては、1つは観たい映画で、もう1本で意外な出会いを提供していたもの。それが今は通用しにくくなってるのかなと感じています」そう木谷さんは話す。そこをどう対応していくかは、Cinema KOBEだけでなく多くの映画館の今後の課題の一つだ。
上映作品にあわせたポスター展示などのコーナーもある |
「観たい作品があるけど、大阪では上映されてても神戸では観られないんじゃないか、と諦めかけている人に、できるだけ鑑賞の機会を届けたい」と話す木谷さん。「せっかくデジタル機材を入れたので、レイトショー枠などもフル活用しながらもっといろんな作品をかけていきたいですね」と意気込む。
アクが強かったり、マニア向けだったりといった、昼間の上映ではなかなか集客が厳しくても、レイトショー枠だったら来ていただけそうな作品も、どんどん取り組みたいと話す。
神戸にはシネコン系からミニシアター系、二番館まで多彩な映画館が揃うが、「その中でも個性をどう出していくかを考えていきたい」と木谷さん。神戸だけでなく、大阪や京都からも「あの映画館、面白そう」と言われる存在を目指しているという。
きれいな館内にリーズナブルな料金、個性的で多彩なラインナップにネットでのフットワーク。今後も二番館という枠組みを飛び越えた、幅広いラインナップの展開を期待したい。