2014年5月30日(金)・31日(土)開催の「神戸三宮映画祭」。
それに先駆けて行われた記者会見から、ネスレ日本株式会社の高岡浩三さん、神戸副市長の玉田敏郎さん、そして佐々部清監督、本広克行監督、岩井俊二監督の挨拶やトークの様子を、全文書き起こしでお届けします。
ネット配信を使い、神戸の地から起こった新しい映画の形の一端に触れてください。
‐‐‐ではまず、ネスレ日本株式会社代表取締役兼CEOの高岡浩三さんよりご挨拶を。
高岡 | この映画祭のきっかけになったのは、YouTubeの中にある「ネスレシアター on YouTube」。 これは昨年来わたしたちがYouTubeさん、その親会社であるGoogleさんと長い時間協議をかけて、「YouTube内に、日本最大のシネマコンプレレックスをつくりたい」と、そこでわたしたちのブランドにかかわるコミュニケーションをやってみたい、と。 そのように世界のGoogle、YouTubeの中で、全く新しい初めての試みをこの日本でやってみたい、というところからスタートしました。 おりしも、日本を代表する映画監督さんたちと意見交換をする機会がありまして、映画監督の皆様方の現在の映画界のビジネスモデル上で、映画館での興行収入の多い・少ないというリスクを取り除いたり、より安定した新しいビジネスモデルがないのだろうか、という思いを聞きました。 その結果、11月からスタートいたしまして、わたしどもは当初の会見の中では「1年間で1千万人ぐらいの人に観に来てもらえれば」と大きな目標を掲げさせていただきましたが、なんとたった半年で、その1千万という目標をクリアすることができました。 「これほどの高いクオリティの作品なら、ぜひ本物の映画館で観てみたい」という声もあまりにも多くいただいたものですので、監督さまがたとの協議の結果、わたしたちの本社がある神戸、そして実は日本の映画発祥の地である神戸の三宮で、この映画祭をやりたいと、全員の意思が一致いたしまして、今回の開催に至ったということです。 おりしも、Googleさんが、YouTubeのコンテンツを簡単にテレビの大画面で観ることのできるデバイスを発売する、というニュースが流れています。(編集部注:「Chromecast」のこと) ただ、これは決して、今ある映画界のビジネスモデルとわたしどもの新しいビジネスがお客さまの取り合いをするということではなく、相乗効果となって、ありとあらゆるところで時間を見つけて、いつでもいろんな形で映画を楽しむことができるという、新しい場、新しい需要というものを作りだしているんだとわたしたちは考えています。 |
‐‐‐つづきましては、玉田敏郎神戸副市長から。
玉田 | このたび皆様に尽力いただきまして、新しいスタイルの映画祭が、ここ神戸で行われることになりました。 新進気鋭の監督さん、俳優さんたちが、いまそこの裏手にたくさんいらっしゃいます。 神戸は実は、映画の発祥地であります。 ということで、非常に映画と縁の深い土地であります。 ネスレ日本さんは古くから神戸で会社を構えていただきました。 |
‐‐‐それではこれより、今回の神戸三宮映画祭に作品を出品された監督の中から、佐々部清監督、本広克行監督、岩井俊二監督に来登壇いただき、トークセッションを行いたいと思います。
‐‐‐この神戸で映画祭を開催されるとのことで、思うところをまず佐々部監督から聞かせていただければ。
佐々部 | ぼくの神戸との関わりは、中学生の時に映画評論家になりたいなと思って淀川長治さんに「弟子にしてください」と手紙を書いたところから、自分の映画の道筋がはじまりました。 淀川さんは神戸のお生まれで、日本映画・外国映画の素晴らしさを、伝道師のように伝えてくださった方。 その生まれ故郷の神戸に呼んでいただいて、こうして自分の作品を上映することができる。 すごく光栄に思います。 |
本広 | ぼくは神戸は、『交渉人 真下正義』(2005年)という、「踊る大捜査線」のスピンオフ映画を撮りました。 地下鉄のシーンがいっぱい出てくるんですが、毎晩終電が終わったらみんなで地下に潜って、2週間ぐらい撮ってたという思い出があります。 ひさびさに神戸に帰ってきて、そして自分のショートムービーがかけられるというのはすごく楽しみです。 YouTube用に作った作品だったので、これを大画面で観るとどうなるのか、自分でも楽しみにしています。 |
岩井 | 『Love Letter』(1995年)という映画を作った時、おもに舞台が小樽なんですが、もう一つの舞台が神戸で、一度ロケハンに来ました。 でもプロデューサーの方から「予算がないので、撮影は全部小樽でやってください」と言われまして(笑)、しかたがないので小樽で、神戸のフリをして撮影しました。 なので神戸で撮影できなかったのがとても心残りでした。 いつかこの地でカメラを回したい、とずっと思っています。 |
‐‐‐前回の「ネスレシアター on YouTube」スタートの記者会見で、佐々部監督は「最終章は劇場で見せるんだ、という気持ちで撮っているんだ」とおっしゃっていましたが、こうして実際に劇場で観ていただくことになりました気持ちをお聞かせください。
佐々部 | 最初ネスレさんにお世話になって作らせてもらった『痕跡や』という作品に関しては、一度横浜で劇場公開させてもらってました。 『ゾウを撫でる』につきましては、高岡さんに無理を言って、「最終章はYouTubeで出したくない、完全版は大きなスクリーンで見せたい」とダダをこねました(笑)。 なので、劇場でお見せするのは今回が初めてです。 自分自身もワクワクしながら、隠しに隠した最終章を楽しんでもらえればと思っています。 |
‐‐‐本広監督の今回の『Regret』がYouTubeを飛び出し、劇場での上映となりますが、そのお気持ちについては。
本広 | この『Regret』が今回の「ネスレシアター」のトップバッターだったので、とにかくたくさんの人に「なんか面白いことやってるね」と思ってもらうようにどうすればいいのか、ショートムービーをYouTubeの中で演出すればいいのか、をすごく考えました。 傾向と対策を練って、試験勉強のように(笑)。 最初の1分を観たら最後まで観たくなるという風に仕込んだりしまして、そうしたら300万プレビューを越えまして、自分の中でもびっくりして、「まだまだいけるな」と思いました(笑)。 まだまだプレビュー数も伸ばしたいし、こうして支援していだたく企業がどんどん出てくださって、後輩たちがショートムービーが作れる環境がどんどん出てくださればいいなと思っています。 |
‐‐‐ネット配信された『花とアリス』の短編から、このプロジェクトとのかかわりが始まっている岩井監督は、どんなお気持ちでしょうか。
岩井 | 十年ぐらい前になるんですけど、いまでこそYouTubeなどは流行ってきましたけど、当時は配信技術もギリギリなところで、『花とアリス』を作る前は、本当に小さな画面で1分ぐらいしか動かない、そんな時代でもありました。 それがようやく、ある程度のサイズでできるようになったことを覚えていて、いまではやっとここまで来たのかという感動も感じています。 その後『花とアリス』は劇場版も公開しましたが、ショートフィルム版は長さ自体は短いんですけど、1シーン1シーンは映画より長くて、映画に出てこないシーンもけっこういっぱい入っていますので、ぜひ新鮮な気持ちで楽しんでいただければと思います。 |
‐‐‐昨年の記者発表の際に、いまは映画業界の状況が変わってきて、監督にあまり自由度がないという話もありましたが、その後なにか変化を感じられたか、その辺りを伺いたいと思っています。
佐々部 | 自由な映画が撮れない、という日本映画の状況は良くなるどころか悪くなっているかなとは思うんです。 私が理事をやっている日本映画監督協会でこの「ネスレシアター」の話をすると、いろんな監督たちも観てくれてます。 日本映画監督協会には530人の監督がいるんですが、去年協会員が撮った映画は91本。ほとんどの監督は映画を撮れていない状況です。 そこでこういう企画で、原作にこだわらず、自由な発想で自由なものに撮れるということに、たくさんの監督が興味を示してくれてます。 そういう、映画界を活性化するという意味では、すごく大きな役割を担っていってくれるのではと思っています。 それから本当にうれしかったのは、原作にこだわらず自由に、オリジナルの脚本が作れるということ。 それがなかなか許されない現場が多いものですから、そこが一番われわれのモチベーションが高く持てるところで、またこういう機会が来年・再来年とつづいていって、もっと若い監督たちがもっと自由な発想で撮れるチャンスが生まれることにつながればいいなと思っています。 |
本広 | 佐々部さんのおっしゃっていることと全く同じです。 とくにぼくはエンターテインメントの監督なので、プロデューサーの意向もありますし、出資者の方々の意向もあって、なかなか自分の思い通りには撮れないんですけど、今回の『Regret』は自分の体験談を思いっきり映像にしてみようという10分間でした。 それを今まで培ってきた技術を使って、若いスタッフにもチャンスを与えて作りました。 こうやってチャンスを与えられると、若い子たちも目標を持てるようになっています。 このカメラマンをやっていた彼は一人前の撮影監督として頑張っていて、結婚もしたみたいです(笑)。 この10分間を作っただけで結婚をするという(笑)。 映画ってのは、作品の出来と今の自分の立ち位置と時々シンクロして、不思議な現象を引き起こす時もあり、ショートフィルムでもそんなことがあるんだなと思いました。 |
‐‐‐最後に、神戸三宮映画祭の発起人として尽力していただいている岩井監督に、今後この映画祭をどう成長させていくべきか、話していただければと思います。
岩井 | ほんとうに、ぜひ続けてください。 ぼくたちもどんどん盛り上げていけたらと思います。 ここからいろんな新しい、面白い、画期的なショートフィルムが次々と生まれたら素晴らしいですね。 どうしても東京中心で映画作りが行われている気がするんですけど、たとえばアメリカだと各都市にちゃんと映画を作れる人たちがいたりして、地方発の全国映画みたいな作品が普通にあるので、そういう拠点に神戸がなればいいなと。 いまは各地方にフィルムコミッションがありますが、その最初も神戸だったので、神戸がまた次のそういう先駆けになればいいなと思います。 |
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