塚口サンサン劇場の改革10年を記した人気連載! 書籍も発売中!

連載コーナーはこちら

第3章 マサラ上映編「ハッピーじゃなければエンドじゃない」4/4

前項で、マサラの紙吹雪を掃除するときに、「他の人の紙吹雪を見る楽しさがある」と書いた。
他の観客が、どんな紙吹雪を作ってくるのか、それを観察する。
他の観客に喜んでもらおう・楽しんでもらおうと、自分ならではの紙吹雪を作り出す。
それをお客が自ら率先してやる。
これは、コロナ禍直前まで、塚口サンサン劇場に集う人たちにずっと共有されている考え方だ。

s0304c

それは「創造的な消費」と呼んでいいかと思う。
映画を観賞する、という消費活動について、ただお金を払うだけでなく、「自分ならではの楽しみ方をどう見つけるか」をみんな考えている。
それは、SNSが一般的になったことと決して無関係ではない。
自分ならではの楽しみ方をSNSでも発信することができるし、そこに作品の作り手や劇場側、別の観客がリアクションすることもできる。
そんな時代だからこそ、お客側も、ただ楽しむのではなく、「自分ならでは」をどう加えてやろうかと考える人が増えてきた。

マサラ上映、というものがまずそんな時代の流れにマッチしていた。
最初はまず、「マサラに参加すること」自体が、自分たちの個性的な消費だったが、さらに発展して、「マサラをどう自分なりに楽しむか」をみんなが考えるようになった。
それの発露の一つが、紙吹雪の個性であり、クラッカーの鳴らし方であり、他の人へのサービス精神でもある。

そして塚口サンサン劇場は、そういった「観客の消費の創造性」を、否定することなく受け入れてきた。
受け入れるだけでなく、そこに「劇場の創造性」を重ね続けている。
それも、観客の期待を少し上回るような、そんなやり方で。
そんなことを続けてきたからこそ、「イベント上映の聖地」と呼ばれるようになり、日本中から多くの人が大きな期待を抱いて訪れる場所になっていったのだ。

塚口サンサン劇場の創造性が「サンサン流」という言葉で呼ばれ始めるのもこの頃からだ。
番組の組み方、イベントの仕方、展示物の制作。
いつも、観客の期待を上回る、予想を良い意味で裏切ることを発表し続ける。
「きっとサンサンは、また面白いことをやってくれるに違いない」
そんな信頼感が、ファンの間に少しずつ生まれつつあった。

マサラ上映においても、その「サンサン流」は随所随所に顔をのぞかせた。
ある時から、カラフルな風船が舞うようになった。
これは、戸村さんが好きなサザンオールスターズのライブの影響だという。
「サザンのライブで風船が舞っていて、楽しいなって。じゃあこれをマサラに付け加えようと思いまして」
私がある日取材で劇場を訪れたとき、まさにその風船を導入した最初に立ち会った。
舞台袖から戸村さんが「秘密兵器です」とニヤリと笑って、風船を持って入り、マサラに沸く観客の上にぽんぽんと降らせつづけた。
その時の戸村さんの楽しそうな顔と、不意に風船が降ってきた観客の大歓声を、私はずっと覚えている。

s0303c

2日間の「合計4回の耐久マサラ」も、サンサン流だ。
「バカなことを考えました。ただただ、たくさんやったら面白いかなって」と戸村さん。
観客も、スタッフも、へとへとになりながらマサラを楽しみつくした。
観客が一丸となって後片付けをしてくれるからこそ実現した企画だ。

「前説」にも力をいれはじめた。
戸村さんや劇場のスタッフが、上映前にアナウンスをする。当初は、「クラッカーの打ち方、紙吹雪のまき方、その他禁止事項の注意」ぐらいだ。
だがいつしか、そこに少しずつ、ジョークが入るようになっていった。
「お客さんは楽しもうとその場所に来ている。だったら肩ひじ張ったアナウンスはやめて、劇場スタッフも楽しげに、面白おかしく前説をしよう」
そんな思いで、ジョークを交えるようになっていった。
2018年頃にはそれが「パフォーマンス」とも呼べる域に達することとなるが、それはまたのちの章に譲ることとする。

またこれも前項で書いたが、「観客を巻き込む」というのもサンサン流の一つだ。
サリー姿での宣伝協力をはじめとして、楽しもうとしてくれている観客に、どのようにして当事者になってもらうか。お客さん側の「創造性」を引き出し、楽しんでもらうように、劇場側はどのようなことをすればいいのか。戸村さんやスタッフは、それをずっと考えている。

そういうことを繰り返していくうちに、「マサラ上映と言えば塚口サンサン劇場」と呼ぶ声が増えていく。特にインド映画ファンを中心に、またサンサン劇場の知名度が増していくこととなった。
「マサラ上映の聖地」
そんな声も聞かれた。

だがサンサン劇場は、マサラをこれだけでは終わらせなかった。
まさに「サンサン流」とも呼ぶべき、大きな決断を行う。

それが、「インド映画以外への、マサラ的な要素の転用」だ。

そして2013年10月13日
サンサン劇場にとってまた一つ、大きな歴史の転換点となるイベントが行われた。

『パシフィック・リム』の激闘上映会

次章では、この上映イベントについて、詳しく触れていきたい。