ある映画の公開が始まったとする。
そのタイミングでは上映せず、全国での公開がひと段落した時、もしくはいったん公開が終わった時から、上映をスタートさせる映画館がある。
これを業界では「セカンド上映」と言ったり、そういった形で映画をかける映画館を「二番館」と呼んだりする。
塚口サンサン劇場が2011年から目指そうとしたのは、まずはこの「セカンド上映」であり、「二番館」だった。
とくに、ミニシアター系と呼ばれる、全国で10~30館規模ぐらいの映画館、とくにシネコンではない劇場で上映される作品は、上映期間も短いことが多い。
ファンの方からすれば、「いつの間にか公開されていて、気づいたら上映が終わっていた」ということもままある。
そうした要望を救い上げ、「これが観たかったんだよ」と言っていただける映画をセカンドで上映する。
塚口サンサン劇場が2011年当初に、周囲のシネコンとの差別化として打ち出した方針は、まさにこれだった。
実は『電人ザボーガー』の前にも、少しずつそういった作品の取り扱いを始めてはいた。
「ゆっくり段階を踏んでやっていこうかな」
そう思っていた戸村さんやスタッフの前に現れたのが、先述した上司の持ってきた『電人ザボーガー』のチラシだったのだ。
「じっくりいこうと思っていたのに、正気ですか……?」
と思った戸村さんは、だが次の瞬間、考えを改める。
「いや、でもゆっくりやっているよりは、むしろ振り切ってしまったほうがいいかもしれない」と。
その決断が、2011年11月を劇場にとってエポックメイキングな時期にした。
もう一個、この『電人ザボーガー』について特筆すべきことがある。
それは、「35ミリフィルムでの上映」ということだ。
ここで、「映画の2013年問題」と呼ばれた転換点を振り返っておきたい。
映画が作られる素材がフィルムからデジタルへ移行していったのが、ここ20年程の流れだが、一番大きな変化はこの2013年前後だった。
大手の映画配給会社、特に海外の映画会社やスタジオが、こぞって作品の完全デジタル化を発表。2013年4月には、基本的にほとんどの新作映画はデジタル素材が基本となり、デジタル映写機を備えていない映画館では上映すること自体が不可能となった。
また同年には、富士フィルムが撮影用・映画上映用フィルムの生産を終了している。
このままでは、フィルム映写機(35ミリなど)しかない映画館は、過去に作られた旧作のフィルム映画しか上映できない、いわば「名画座」的なポジションになってしまう。
ではデジタル映写機を導入すればいい、ということではあるが、それには結構な費用がかかった。
単館系、ミニシアター系の映画館では、その費用を捻出することも厳しいところが多く、事実このタイミングでいくつかの映画館は、営業を継続することが不可能となったという。
話を塚口サンサン劇場に戻す。
同館は、2011年の段階で、デジタル映写機は導入しておらず、すべて35ミリフィルムの映写機だった。(デジタル映写機を導入したのは2013年2月のことだった)
だが、実は『電人ザボーガー』は、基本的にデジタルで制作されていたのだ。
このままでは、上映することができない。
でもやりたい。振り切ってでもやると決めた。
そこに朗報が入る。
実は、試写用の35ミリフィルムが一本だけあった。
それを手配してもらえることになったのだ。
こうして、
「全国で唯一、デジタルでなくフィルムで『電人ザボーガー』を上映する映画館」
が、兵庫県尼崎市に現れることになった。