兵庫県の塚口サンサン劇場で話題の「ダンボール班」。そのインタビューの後編です。(中編はこちら)
『ボヘミアン・ラプソディ』の楽器セット
もともとダンボールで展示物を作る、というのは、戸村さんもやっていたという。まだ塚口サンサン劇場が今ほど多彩な作品を上映していなかった2010年前後に、ポスターを切って組み立てて、というのをやっていた。
その時から「映画館に何かが欲しいな」と思っていたという戸村さん。その思いが、國貞さんの技術力を得て、大きく広がっていったのが、塚口ダンボール班だ。
『プロメア』の時はまといを制作
國貞さんが一番気を付けていることは「作品の世界観を壊さないように、リサーチ・資料集めをする」ことだという。
「うちの劇場は、セカンド上映が多い。つまり、一度作品を観た後で、『面白かった』と好きになった人が、観に来てくれることが多いんです。
そういった人たちにちゃんと納得いただけるように、作中の解釈が一致するように、造形物の細部をちゃんと調べたうえで表現しています」
その心がけが、よくある宣伝用の造形物とは一線を画した、作品愛をお客さんと分かち合えるものになるのだろう。
「遠方からわざわざ来る方が多いのも特徴。みなさんわざわざ電車を乗り継いで、塚口に来る。音響が良かったり、イベントがあったりするのも特徴の一つだけど、それだけじゃなくて。映画を普通に観るだけでなく、ささやかだけど写真に撮って帰れるものがあったらうれしいのかなと思ってます」
戸村さんも同意見だ。「『映画観てきたで』と言いながら友達にスマホで見せる写真がダンボールの戦車だったら面白いな、って。みなさんがちょっとした遊びに参加してくれるための仕掛けですよね」
『ガールズ&パンツァー』の戦車と学園艦
毎回毎回制作のたびに頭を悩ませるのは、戸村さんの「ちょっとしたメモ」を実物のものに落とし込むことだ。
「僕のふわっとしたイメージを、ここまで具現化してくれるのは能力だし、才能なんじゃないかなと思います」
そう戸村さんは激賞する。
「そしてそれを、お客さんの納得のある形に仕上げるセンスもある。単純に広告宣伝物として作るのでなく、お越しいただいた方により楽しんでいただくために何ができるか、どういうものを作れるかを毎回考えて挑んでいってくれている」
『トレインスポッティング』のトイレ
昔、映画黄金期と呼ばれた昭和の時代。
たくさんあった映画館は、入り口に大きな「絵看板」が掲げられ、テーマパークの入り口のようにお客さんの気持ちを駆り立て、楽しい思い出を後押しした。
絵看板は、絵師たちの手作りだった。巨大な看板に絵を豪快に描き、サービス精神で盛り上げた。
塚口のダンボール造形は、まさにその絵看板の感覚が今の時代によみがえった、そんな風にも見て取れた。
「それは根っこに、映画館はお客さんに楽しんでもらう場所、という思いがあるからだと思いますね。その気持ちがないと、たとえ能力があっても、違う方向を向いてしまったりする」と戸村さん。
「でもうちの劇場にはやはりその思いが強くある。スタッフみんなが共有できているので、ダンボール一つとっても、こうやってお客さんに楽しんでもらえるものができてくるのだと思っています」
2016年につくった初代戦車。ここからダンボール班の歴史がうごいた
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■映画館 塚口サンサン劇場 (尼崎市南塚口町2-1-1、TEL 06-6429-3581) ■サイト |