かつての大阪の映画館で掲げられていた手描きの映画絵看板を紹介する書籍『昭和の映画絵看板 看板絵師たちのアートワーク』の発売記念トークイベントが、7月30日(金)に大阪で開催された。
スライドで往年の絵看板を振り返りながらトーク
発売中の『昭和の映画絵看板 看板絵師たちのアートワーク』
大阪・梅田のTSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEで、定期的な開催を目指すトークイベントシリーズ「映画にただ酔う夜」の一環。
今回の書籍にほれ込んだエッセイストの武部好伸さんが司会を務め、松原成光さん、伊藤晴康さん、岸本吉弘さん、貴田明良さんの不二工芸の元絵師4名、そしてこの本の企画者・貴田奈津子さんが登壇した。
登壇者の皆さん。一番左は、同書籍の帯文を書いた都築響一さん。続いて、武部好伸さん、貴田奈津子さん、貴田明良さん、伊藤晴康さん、松原成光さん、岸本吉弘さん。
武部さんは冒頭で「この書籍が扱っている時代は、主に映画の全盛期・昭和30年代。大阪市内でも映画館が300館以上あった時代」とコメント。「この本にはその時代の絵看板がたくさん載っている。映画文化の記録性もすごくあるし、当時の日本の世相の記録でもある。とても意味があることだと思う」とあいさつした。
貴田奈津子さんも「撮りためていた写真のネガが大量に出てきたので、一つの文化として残す価値があると思い、大阪市の芸術活動振興事業助成を受けて、残す作業をしてきた。それが今回書籍の形になった」と感無量の様子だった。
貴田奈津子さん
トークイベントでは、元絵師の人たちの制作時のエピソードも多数披露された。
通常の絵看板のほかにも、絵の一部を切り抜いて大きく際立たせた「切り出し看板」、さらに一部を立体に組み替えた「立体看板」、絵の一部が動く「動く看板」、車で移動する「街頭宣伝車」についても言及。当時の、テーマパークの装飾のような映画館の入り口の写真が次々に紹介された。
武部さんは、「今の商業施設の中にあるようなシネコンと違い、当時は映画館が路面にあることがほとんどで、その入り口にはたくさんのこうしたにぎやかな看板があって、夢のような世界だった」と話す。
当時の仕事を振り返る元・絵師の皆さん
ほかにも、描画に使用した「にかわ」とアクリル絵の具、泥絵の具などについてのお話や、実際に使用していたハケの紹介も。看板の大きさのあまり、筆はほとんど使えず、ハケを多用したという。泥絵の具だと雨で流れてしまうため、ひさしの下の看板に使用。雨風の当たるところは、ペンキで描いたとも。
松原さんは「絵では、本来の写真より強調することができる。例えば俳優の目を、実物より強調して、強い印象を覚えさせることもできる。私たちは世界中の俳優を、こうして化粧してやってきました。それが絵看板という仕事です」と振り返った。
使っていたハケを持参して説明
武部さんは、「皆さんが手がけた看板を、私も幼いころに見て、とても強い印象に残っています。こういう絵看板を見て、ぼくたち普通の通行人はこの映画かっこいいな、とか、観てみたいな、とか、ワクワクしていたんだと思います」とコメント。
「いまはポスターがよく使われるけど、当時の絵看板はパワーがある。そんな時代を体験できてうれしく思いますし、皆さんのアートワーク、お仕事に敬意をささげます」と締めくくった。
司会進行を務めた武部好伸さん
貴田さんは、今回の書籍には納めきれなかった約1,000枚はある写真資料を、インターネットで公開できるように、クラウドファンディングで出資を募っている。詳しくはこちら
詳細情報 |
■サイト ・映画絵看板資料のアーカイブ化と閲覧可能なwebサイトの制作(クラウドファンディング) |