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「ビューワー・ビューワー」第5回 圧倒的感動はおしゃべり女たちも黙らせる(藤澤さなえ)

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私はひとりで映画館へ鑑賞に行くのが苦手です。
ぼっちで鑑賞すること自体は平気です。ただ、鑑賞後に映画の感想を喋りたいんです。そしてそれを誰かに聞いてもらいたいんですよ。
感想を残したいならメモればいいじゃんって話なんですが、どういうわけか声に出したい。そして、「そうだね」と相槌を打ってもらいたいのです。
これって映画に限らず、観劇でも展覧会でもコンサートでもそうなのですが、その時にしか得られない芸術を摂取した時は、どうしても感想戦が必要なんです。
きっと感想を口にするために頭の中で感動を反芻させることで、記憶に焼き付けているのだと思います。
と、まぁ、そんなわがままな理由で、私はめったにひとり鑑賞には行きません。あと、映画の鑑賞後には何の予定も入れません。じっくり感想を咀嚼してからでないと、次のことをしたくないんですよね。
そして、そんな私には中学時代から、そのわがままな感想戦に付き合ってくれる良き女友達がいます。当時からオタクな私がハマったアニメや漫画を一通り見てくれ、いつも一緒に作品について語らってくれました。そう言えば、映画館初心者な私をアニメの劇場版の鑑賞に連れて行ってくれていたのも彼女でした。彼女が上映時間を調べ、窓口でチケットを買ってくれていたから、私は安心して映画館に行けたし、帰りの感想戦も楽しむことができたのです。
高校からは別の学校に進学し、社会人になってからは彼女が上京してしまったため、会う回数は減ってしまいましたが、今でも時々近況を報告しあう、まさに親友と呼べる人です。

さて、前置きが長くなりました。
先日、私が東京に出かけた際に、その親友と久々に会いました。ワインを飲みながら上機嫌に近況報告をしていのですが、会話は一向に止まらず、結局カフェに梯子してまで話し込みました。気づけば終電が迫る時間で、そろそろ~と言いながらも話題は途切れません。しかも私はつい「最近気になってる映画があって……」なんて話を振ってしまったのです。ところが、ノリの良い親友は「なになに?」と興味を持ってくれました。
「ネットで話題の映画でさ! 面白すぎて、見ると語彙力を失うらしいよ」
「え、なにそれ(笑)」
「よくわかんないけど、とにかく最高のインド映画らしい」
「ふぅん。ねぇ、大阪には明日の夜に帰るんでしょ? 私も仕事は夕方からだし、明日の昼に見に行こうよ!」
と、その時になって突然明日の予定が決まりました。
慌てて劇場と時間を調べたところ、もう上映しているのは一館のみ。それも、見られそうなのは朝10時と昼15時の2回しかありませんでした。
「どっちの回にしようか……」
と口にしながらも私としては10時の回一択でした。だって15時開始だと、その後の予定的に鑑賞後すぐにバイバイしなければいけない。それじゃあ感想戦ができない!
でも、朝10時開始だと今から12時間も待たずにもう一回会う計算になります。こんなにも酔っぱらってるのに、早起きして、電車で1時間の距離の映画館で待ち合わせ……。さすがの私でもそんなわがままを言う度胸はありません。けど、15時がいいとも言えない!
自分勝手な理由でうんうん悩むことしばし。すると親友は、私のことを察したのか優しく言ってくれました。
「10時にしよう」と。
「後ろがあると思いっきり楽しめないしね」と。

天使!

いつだってそう思ってきましたが、やっぱり彼女は天使でした。ありがとう友よ、我が愛しの理解者よ!
何度もお礼を言いつつ終電に急ぎ、その日は解散。そして翌朝9時半にはミニシアターの前で彼女と再会しました。
親友は、大きなリュックサックを背負っていました。朝一番の映画を観た後、仕事に出るまでに帰宅する暇がないことを予想して仕事道具一式を担いできてくれたのです。しかも「映画の前評判を調べてきたけど、本当に面白そう。シリーズ2作目らしいけど、1作目を見てなくても楽しめるんだって」なんてことまで教えてくれました。なんてできた親友なのか! そして2作目だったのか。知らなかったや、へへっ。
「よし、心置きなく見よう!」
「見よう、見よう!」
と、全力で楽しんできました、『バーフバリ 王の凱旋』!!

いやー、噂通りの大作でした。クライマックスが何回もあってすごい、みたいな感想を見てましたが、たしかに的を射た表現です。
とにかくずっと山場ばっかり! 2時間を超える長編なのに1秒も中だるみしない! そして登場人物がカッコイイ! セリフもカッコイイ! 最初から最後まで圧倒されっぱなし! 終演後、思わず手を合わせて「ありがとうございました」と頭を下げたのは、今のところこの映画だけです。とにかくそれくらいに面白かった!
……というわけで意気揚々とカフェに入り、いつもの感想戦を始めようとしたわけですが……。
「すごかったね」
「うん、すごかった。面白かったね」
「うん、面白かった。かっこよかったね」
「うん、かっこよかった……」
「…………」
みたいなかんじで――会話が成立しない(笑)。
圧倒されすぎて具体的なことは何も言えず、「全部が面白かった」しか出てこないのです。興奮してるのに、その熱を言語化できない。なるほど、これが語彙力を失うということか!
せっかく二日酔いをおして来たのに。早起きしたのに。無理やり時間を作ったのに、何も語らえない!
我々は大した会話もできないまま、もくもくとランチを食べ、お茶を飲み、「すごかった」を呟き続けるだけでした。
そして気付いたら解散の時間。親友は「ありがとう、面白かった」と神妙な顔で言ってくれました。私は「私、バラーラデーヴァが好きだった」というやっと感想らしい感想を言えました。
今回ほど会話のない感想戦は初めてです。でも、何も言えなくても「すごかった」を共有して過ごした時間は最高でした。これもまた感想だよね。ありがとう、友よ!
語彙力が死んじゃったので上手に言えないけど、とにかく、親友とみるバーフバリはいいぞ!

執筆:藤澤さなえ
2002年、大学在学中から創作集団グループSNEに所属。2004年に『新ソード・ワールドRPGリプレイNEXT(富士見ドラゴンブック刊)』シリーズを発表。以来、アナログゲームを中心に小説、リプレイなどを多数刊行してきた。他にもゲーム記事、シナリオのライティング、エッセイ、漫画のネーム執筆、TRPGのディレクティングなど活動は多岐にわたる。2017年に独立し、現在はフリーランス。趣味はもちろんゲーム全般。

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