中身はわからないけれど、見た目が気になったので手に取ってみた。いわゆるジャケ買いってやつですが、私はコレ、わりと得意なんです。あんまりハズレを引いたことがない。主に漫画でやってるんですが、映画でも何度かチャレンジしたことがあります。映画のジャケ買い(ポスター買い?)は本当に当たりばかりで、チャレンジした作品はどれもこれも面白かったです! 特に『マッチスティック・メン』や『ビッグフィッシュ』は、これをきっかけに監督の名前を覚えたので、ほんとに見てよかったな、と(初心者ですいません……)。
時には失敗もありますが、私の場合、手痛い失敗をした記憶はそんなにありません。――でも、手痛い失敗に巻き込まれたことならあります。友達が、忘れられないあちゃーなことをしちゃったんですよね。
その友達は大学の同級生で、小柄だし、栗色のおかっぱ頭だし、瞳もほっぺも丸いしで、まるで絵本から出てきたみたいな女の子でした。しかも「誰かの夢を応援する仕事につきたいの」と照れ臭そうに話すような子ですよ。見ても可愛い、喋っても可愛い、可愛いの塊みたいな子なんです!
同じクラスという奇跡のおかげで、授業終わりに食堂でおしゃべりするくらいの仲は築けたのですが、もう一歩仲良くなりたい。このマシュマロのような空気の彼女ともっとお近づきになりたいな~。そう考えていたある日、彼女が映画に誘ってくれました。
「気になってる映画があるんだけど、一緒に行ってくれる人がいなくて……。良かったら一緒にどうかな?」
これは渡りに船! 絶好のチャンスに、私はふたつ返事でOKしました。
「でもね、その映画がどんな話かは知らないんだ。タイトルとポスターが素敵だったから見てみたいってだけで……」
……『魔女の宅急便』かな?
当時、魔女の宅急便が放映されてたわけじゃないんですけども。ただ、彼女が惹かれそうな作品といえば、少女漫画系のような気がしたので、思わず脳内で『やさしさに包まれたなら』が流れました。
「洋画なんだけど、結末が気になるタイトルなんだよね」
……『フォレストガンプ』かな?
私の乏しい映画知識で、感動の結末系洋画といえばコレだったんで、それっぽい映画なのかなーって。
「どんな内容か調べてないから、面白くなかったらゴメンなんだけど……」
ま、どんな映画かは見ればわかります。今は彼女とお近づきになることが重要! 彼女もすぐにでも見たいって顔をしているし、ここはもう流れに乗るしかないっ。
そんなわけで、私たちはすぐに食堂を出て映画館に向かったのでした。
そして彼女が案内してくれたのは梅田の小劇場だったのですが、そこで待っていたのは意外なポスターでした。
彼女が見たかったのは『天国の口、終わりの楽園。』という作品で、青年2人がエキゾチックな美女を囲んで海に浸かっている、ちょっとアダルトなポスターが飾られていたのです。しかも「R-15」の文字が……。
これはたぶん、永遠の愛を誓い合ったカップルの優しいベッドシーンがあるんだろう。殺人シーンじゃないだろうな。
そう、友達のイメージから勝手に決めつけつつチケットを買って、劇場内へ。平日の昼間ということもあって、他にお客さんはほとんどおらず、もはや彼女と2人きりなんじゃないかと錯覚するような環境。そこで彼女と初めて映画だなんて、もうテンションマックス! こいよ、映画! はよ始まれ! みたいな状態で、いざ映画はスタートしました。
そして、いきなりのベッドシーン。
3分後には、また別のベッドシーン。
さらに数分後には、今まで恋人を抱いてた青年がゆきずりの女をナンパしていかにベッドに連れ込むかを計画し、そしてベッドシーン、ベッドシーン……いや、必ずしもベッドでいたしてるわけじゃないので語弊はあるのだけれど、とにかくそういうシーンばっかり! もちろん愛はない!
『魔女の宅急便』とは差がありすぎて、意表を突かれた私はただただ呆然とスクリーンを見ているばかりでした。
一応ことわっておくと、けして映画の出来が悪いわけではないです。メキシコの夏のロードムービーで、空や海の映像はすごく綺麗だったし、ヒロインの秘密や、しんみりしたラストも印象的で、いろいろ考えたくなることが湧き出てくる素敵な作品でした。
ただ、人生で初めてスクリーンでぼかしを見た身としては、ちょっとそれどころではない状況でしてね! 性欲を持て余す青年2人が主人公の物語ですからね! 青い海よりも、「早くしようよ!」と自ら脱いじゃう女の子の方がインパクト大だったんですよ!
そんなこんなで「こんなはずでは」のオンパレードな鑑賞は終了。劇場を出た後、友達は真っ赤な顔を両手で覆いながら「ほんとごめんね、ごめんね」と繰り返していました。ここで私も何か気の利いた返事ができればよかったんですけど、自覚できるくらい顔が引きつっていたので上手にとりつくろえなかったんですよね。友達よ、こっちこそごめんね。
そんな空気の我々がその後カフェに寄るようなことはなく、大した会話もないままにその日は解散となりました。彼女が私を遊びに誘ってくれたのは、後にも先にもこの1回だけでした……。
気心が知れた仲間ならさておき、まだ距離をさぐりあってる間柄では、ジャケ買い、ポスター買いに巻き込んではいけないという偉大なる教訓を得た日でした。
余談ですが、その帰り道で彼女が唯一目を輝かせていったのは「予告で流れた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』がとても面白そうだったね! トレーラーだけで大興奮だったよ!」でした。性転換手術に失敗したロックシンガーの映画だったので、やっぱり人は見かけによらないんだなぁという教訓も得ましたね!
執筆:藤澤さなえ 2002年、大学在学中から創作集団グループSNEに所属。2004年に『新ソード・ワールドRPGリプレイNEXT(富士見ドラゴンブック刊)』シリーズを発表。以来、アナログゲームを中心に小説、リプレイなどを多数刊行してきた。他にもゲーム記事、シナリオのライティング、エッセイ、漫画のネーム執筆、TRPGのディレクティングなど活動は多岐にわたる。2017年に独立し、現在はフリーランス。趣味はもちろんゲーム全般。 |