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「ビューワー・ビューワー」第1回 はじめてのデートは映画館が鉄板だけど!?(藤澤さなえ)

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この度、縁あって映画について書く機会をいただきました私ですが、実は映画について造詣が深い方ではありません。どちらかと言えば初心者にカテゴリされるだろう経験値しか持っていません。

幼い頃から物語を摂取するのは大好きで、漫画、小説、アニメにゲームとさまざまなジャンルを貪ってきましたが、映画だけは触れる機会に恵まれなかったのです。まず、育った場所が大阪とはいえ端っこの田舎だったので、映画館がめちゃくちゃ遠くてほとんど行ったことはありませんでした。しかも夜9時には床に就くいい子ちゃんだったので、テレビのロードショーもあまり見たことがなかったのです。ユニバーサルスタジオジャパンがオープンした時、意気込んで遊びに行ったものの、取り上げられている映画の中では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』しか知らなかったことは友達たちの間で伝説になりました。『E.T.』も『ジョーズ』も見たことないのかって。……じ、ジブリやディズニーのアニメ映画ならおとーさんおかーさんと見に行ったことがありましたよ……?

映画から縁遠かった10代の頃の私にとって、映画鑑賞と言えば大人の文化でした。その理由は、遠い街へでかけることだったり、学生のお小遣いとしてはけして安くないチケット代がかかることだったりと色々ありますが、なんといっても「映画館」には「デート」というイメージがあったのが大きいですね。テレビや雑誌でも「映画を見に行く=デート」みたいな構図があったじゃないですか。少女漫画でも、ヒロインが初めての彼氏と出かけると言えば映画館が定番だったし! つまりアレでしょ? 映画館って、赤い口紅を塗っている金髪女優と、彫りが深くて甘く笑う男優のキスシーンを見ながら、隣に座る恋人と暗闇の中でコッソリ手をつなぐ場所なんでしょ!? なんだったら肩にもたれかかって、周囲の人から見えてないのをいいことに好き放題やって……アーッ!! みたいな場所なんじゃないかと真面目に思っていたのです。あぁ、思春期って怖いデスネ。そんなわけで、「私ごとき雑魚が行っていいのか」「いやいや、遠慮しますよ、えへへ」みたいな、照れくささというか、意気地のなさがあったのだと思います。
ところがそんな私にも大人の階段を上る時が訪れました。高校に入って初めてできた恋人から「今度、映画を見に行こう」と誘われたのです。それまで放課後に公園とか、休日に図書館みたいな大人しいデートばかりだったのに、突然の映画館です。
こ、これはついに大人になってしまうのか!? 暗闇の中で手をつないでしまうのか!?
今の自分からでは可愛い話ですが、当時の自分にとっては人生を揺るがす大変な事件です。でも断る選択肢はない。でも不安でいっぱい! チケットはどうやって買うものなのか。ポップコーンは持って入らないと恥ずかしいものなのか。心配事は数あれど、多感な女子高生にそれらを誰かに相談する勇気もなく……。結局、なるようになれと腹をくくって映画館デートに臨むしかなかったのです。
というわけでデート当日。朝、彼氏くんと駅で待ち合わせ、いつも以上にぎこちない挨拶を交わしていざ映画館へ。道に迷うことはなくスムーズにたどり着けたことでちょっと気持ちは軽くなり、今日はいいカンジにいけるんじゃなーい? と、余裕ができた気がしました。――が、問題はここからでした。
チケット売り場の前で彼氏くんが言ったのです。「何の映画が見たい?」って。
そう、我々は何を観るのかなーんの相談もなく映画館にやってきたのです。映画館でデート、ただそれだけにいっぱいいっぱいになってしまっていて、見る映画について何も考えてこなかったのですよ! しかし、映画館にいるだけで緊張している私に見る映画を選ぶなんてことができるでしょうか、いやできるはずがない。遠回しに「あなたが選んで」と言ってみますが、相手は「君が見たいものでいいよ」を譲りません。チケット販売員さんを前にしながら決して短くない譲り合いが行われましたが、結局根負けした私が映画を選ぶことになりました。
……でも、ここで内容がわからない洋画なんて選べるはずがありません。だってえっちなシーンがあったらどうするの! 隣に座ってなんかいられないじゃない! じゃあ邦画にする? いやいや、大御所俳優の渋そうな映画なんてオシャレじゃないぞ!? あぁ、でもやっぱり洋画は選べない! あぁぁ、どうすれば~~~!? ……は、これだ! この映画なら間違いない!

「ぴ、ピカチュウのなつやすみが見たいな……」

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私は、大人の階段を上れないままに初めての映画館デートを終えました。大して人の入っていない映画館で、隣の彼と手を握るようなこともなく、ぼんやりと、でも絶大な安心感を持ってピカチュウを眺めた記憶は一生ものです。
今思うと彼氏くんにとっても緊張の一日だったのでしょうね。見る映画を決めずに映画館デートに誘ったんですから。やっぱり映画は大人の文化だったのです、幼い学生カップルにはちょっと早かった気がしました。

こんなに映画経験の浅い人生を送ってきている私ではありますが、こうした映画の思い出をぽつぽつ書いていこうと思いますので、なにとぞよろしくお願いいたします。

執筆:藤澤さなえ
2002年、大学在学中から創作集団グループSNEに所属。2004年に『新ソード・ワールドRPGリプレイNEXT(富士見ドラゴンブック刊)』シリーズを発表。以来、アナログゲームを中心に小説、リプレイなどを多数刊行してきた。他にもゲーム記事、シナリオのライティング、エッセイ、漫画のネーム執筆、TRPGのディレクティングなど活動は多岐にわたる。2017年に独立し、現在はフリーランス。趣味はもちろんゲーム全般。

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