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吉田恵輔監督が描くおかしくも壮絶な愛憎劇 「どのキャラにも感情移入できる映画」『犬猿』制作裏話

前作『ヒメアノ~ル』でコミカルなタッチと過激な暴力描写を巧みに絡め、国内外の映画ファンから絶賛された吉田恵輔監督の最新作『犬猿』が、2月10日(土)より全国公開される。兄弟・姉妹が抱える羨望や嫉妬、近親憎悪といった複雑な感情を、笑いとシリアスな視点を織り交ぜ、おかしくも壮絶な愛憎劇へと昇華させた。そんな吉田監督にインタビューを行い、制作の裏話や作品にかける思いなどを伺った。

吉田監督写真(キネプレ)
𠮷田恵輔監督

映画『犬猿』は、『麦子さんと』(2013年)以来約4年ぶりとなるオリジナル脚本を映画化した作品。
ある日、印刷会社の営業マンとして真面目に働く金山和成(窪田正孝さん)のもとに、強盗罪で服役していた兄・卓司(新井浩文さん)が刑期を終えて転がり込んでくる。トラブルばかり起こす兄に頭を抱えつつも、凶暴さに怯えて文句の一つも言えずに過ごしていた。一方、小さな印刷所を営む幾野由利亜(江上敬子さん)は、仕事ができるものの太っていて見た目が良くない。得意先である和成に想いを寄せるも、彼は妹・真子(筧美和子さん)と良好な関係を築いていた。頭が悪いがルックスと愛嬌の良さから周囲にチヤホヤされる妹に、由利亜は苛立ちを募らせていく。
凄まじい“犬猿”バトルを描いた本作に、豪華キャストが集結。演技力に定評のある窪田正孝さんと新井浩文さんが熾烈な争いを繰り広げ、お笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子さんと人気タレント・筧美和子さんが体当たりの演技で火花を散らす。

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©2018『犬猿』製作委員会

2組が複雑に絡み合いながら展開するストーリーは独特で、脚本構成力が高く評価されている吉田監督ならでは。「兄弟や姉妹の話って面白い話がたくさんあるので、自分でも作ってみたいと思っていました。当初はそれぞれ別に書いていたんですが、どちらもすでに傑作がありますし、このままでは企画として弱いかなと感じていて……。そんな時、ふと『(2組を)合体させた作品ってないよな』と思いついたんです。その瞬間、プロデューサーの喜ぶ顔が目に浮かびましたね(笑)。ストーリーも広がりそうでいいなって。それがスタートでした」と語った。
また、姉妹がバトルを繰り広げる舞台が自営業の印刷所で、姉が社長、妹は一従業員というユニークな関係も見どころ。吉田監督は、狭くて、逃げ場のない嫌な空気感を表現したくて考えついたと話す。「印刷所の事務所って狭そうだし、薬品の臭いが漂ってそうな、ちょっと空気が淀んでいそうな雰囲気も出せるな、と。あと、美容とかに気を遣う必要のない環境を設定しやすいのも良いなと思いましたね。一緒に働いているのがおじさんや外国人だけで、ネイルだの何だのする必要性がないのに妹はしているっていう。そういう画作りができたのも良かった」と振り返った。

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©2018『犬猿』製作委員会

全編を通して描かれる喧嘩は、激しさがありつつもどこかコミカルだ。たとえば、何気ない会話の中で一言余計な言葉を発したところから口論が始まったり、互いに嫌味を言い合う中で徐々にヒートアップしたりと、兄弟・姉妹を持つ人なら特に共感しやすいエピソードが随所に盛り込まれている。ただ吉田監督は、自身は姉がいるものの接点が少なく、実際の姉との関係はあまり反映していないという。それでも、近しい経験はあったようで、「脚本に書いているってことは、俺も相当やっているということ(笑)。やり尽くした結果のオンパレードをさらけ出しています」と笑った。
加えて、本作では男同士、女同士の喧嘩の違いも描かれているのではと聞いたが、吉田監督は「(その差は)錯覚ですよ」と。「女性の台詞で書いているから女性の喧嘩になっているだけで、男性の役者に男言葉でやってもらっても何の違和感もないですからね。でも観ているうちに、『女って、男ってこうだよね』っていう感覚に陥るように書きました」といたずらっぽく答えた。

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©2018『犬猿』製作委員会

また、登場する4人のキャラクターも魅力的だ。たとえば、いつもは自分勝手な妹が珍しく家事を手伝おうとして姉に邪険に扱われてしまう不憫な姿や、凶暴な兄が弟のために車を贈ろうとする優しい一面も描かれる。それぞれが持つ表の顔と裏の顔を共に盛り込み、一概に善人・悪人と言い切れない人物像に心惹かれる。「人間って普通、長所も短所もあるものですからね。どれだけ表せているかはわからないですけど、いつも観客の視点から考えて長所も短所もイーブンになるように書いています」と明かした。

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©2018『犬猿』製作委員会

そんな魅力あるキャラクターを演じたキャストについて、「それぞれの演技に委ねる部分が多かった」と吉田監督。「特に男性陣は、『脚本を読めば、すぐ正解(の演技)を出しちゃうんでしょ』って思っていました。だからスタートとカットは言うけど、演出はしないよって(笑)」。実際に2人の演技は見事で、表現の強度を調整する程度だったという。「あまりに(演技が)強いと『ちょっとわざとらしいな』ってなるし、あまりに弱いと感情が見えなくなる。どれくらいの強さなら伝わるか、嘘くさくなるかっていう線引きを決めるのは俺しかいないので、そこを意識していました」と振り返る。
そして、男性には委ねる分、女性陣の演出に全精力を傾けていたと明かした。「割といつも、『絶大に信頼できる演技のうまい人』と『飛び道具になってくれそうな人』を組み合わせて映画を作っているんですよ。演技のうまい人にはもう任せてしまって、もう一方の人たちを頑張って一緒に引き上げていく。それが、今回は女子の2人でした」。ただ、女性陣も何度も撮り直すような場面はなく、スムーズに進行したそう。「終盤、大喧嘩して感情が一番出てくる流れは、時間がかかるかなと思っていました。最初のリハーサルが、あまり良くなかったので(笑)。でも他のシーンの撮影も進めていく中で一緒に芝居を組み立てていけたので、うまく流れに乗れて……。最終的には『すごいな、もう女優さんだな』と思いましたね」と語った。

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©2018『犬猿』製作委員会

各々の好演が光る中、特に目を引くのが本作で映画初出演を果たした江上さん。彼女の存在感は大きく、全編を通して輝きを放っている。「演じている由利亜の個性が結構立っているから、持ち前のキャラクターでできたっていうのもあるかもしれないけど、スイッチの入り方は天性のものがあるなと思いましたね」と吉田監督の評価も高い。特に、クライマックス後に病院の屋上で4人が語らうシーンは強く印象に残っているよう。他とは違う雰囲気を醸し出すべく、その場面のみエチュード(即興劇)を取り入れた。「脚本には『和やかに喋る4人』としか書いていません。立ち位置は動かずに、2カット撮るからねとだけ伝えました。ここで勘が良かったのが江上さんで、編集点を考えて話がつながるように話題を振ってくれたんですよ。なぜ前もって2カット撮ると言ったか分かってくれていて、さすがって思いましたね」と笑顔で話した。

最後に、本作で伝えたいメッセージについて伺うと「逆に皆さんがどう持ち帰ったか聞いてみたいですね。兄と弟、姉と妹、どのキャラクターにも感情移入できるよう作っているので、皆さんの生き方によって、誰に、どのように感情移入するかは違ってくると思います。だから、どんなメッセージに聞こえたか教えてほしいですね」と語った。

映画『犬猿』は、2月10日(土)よりテアトル梅田ほか全国ロードショー。

※吉田監督の「吉」は「土よし」、

映画『犬猿』予告編

詳細情報
■上映日程
2月10日(土)~

■サイト
『犬猿』公式サイト