世界各地の映画祭で話題となった短編ドキュメンタリー3作品をまとめたオムニバス映画『デンジャラス・ドックス』が、11月18日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォにて公開。愛媛県松山市道後の喧嘩祭りに迫った異色作『渦』のガスパール・クエンツ監督とプロデューサー辻本好二さんに話を伺った。
『デンジャラス・ドックス』の中で唯一の日本を舞台にした『渦』は、「死を感じる瞬間さえもある」といわれている愛媛県松山市道後で毎年開催されている秋祭り(通称:喧嘩祭り)の内部に迫ったドキュメンタリー作品。
東京で上映された際には、Twitterに「マッドマックスな気合いと気迫の凄まじさ」「絶対テレビでは流せない。一番危険」「迫力がやばかった!」と興奮を隠しきれない観客のツイートが溢れ、話題となった。
パリ出身のガスパール監督は高校生の頃、日本映画に魅了され、2003年に来日。映画学校を卒業後、日本、インドなど世界各地を舞台にしたドキュメンタリー作品を制作している。
2014年には、カナダのHot Docsドキュメンタリー国際映画祭にて中編グランプリを受賞。現在は長野県に在住し、プロデューサーの辻本さんと共に世界へ向けた作品を精力的に手掛けている。
以前から喧嘩祭りに注目していた辻本さん。「ガスパール監督が喧嘩祭りをどう撮るのか、僕自身が見たかった」と話すように、監督に喧嘩祭りの内部に迫ったドキュメンタリーを作ってみないかと提案した。
動画などを見た監督も興味をもち、撮影協力を依頼するために、祭りを取り仕切る総代に会いに行った2人。「テレビなどの取材とは違い、内部に入り込んだ映画にする」と監督は総代に説明。祭りへの情熱が伝わり、総代から撮影全面協力の許可をもらったという。
辻本さんは「日本や海外のメディアが今回のような撮影を申し込んでも、取材できないことも多い。僕たちは波長が合ったのかいきなりOKをもらうことができた。後から関係者に『いきなり総代のところによくいけたなと』と言われました(笑)」と振り返った。
神輿に小型カメラを設置するなど、前代未聞の撮影プランも総代の全面協力があったことから実現。しかし、祭りに参加する人たちへの撮影は、距離の詰め方を慎重に行いながら進めていったそう。
監督は「祭りの3週間前から、さまざまな人に取材を行い、距離を詰めていきました。時には撮影するフリをしながら、常にカメラがいることに慣れてもらうやり方もしました」と話す。
辻本さんも「監督は距離の詰め方がうまい。僕も人がたくさんにいるところに入っていき、会話をしながら距離を近づけていきました。祭りが終わる頃には、抱き合うぐらいの関係性になってました」と明かす。
作品では被写体の距離が近いように見えるが「主人公は祭りと神輿。あくまでも祭りそのものを映し出しています」と監督は説明する。
本作で監督が描きたかったのは「祭りは、その人の本来の姿を映し出す」ということだという。
神輿をぶつけ合う「鉢合わせ」では、神輿が地面につかないよう、人が下敷きになってまで神輿を守る。死とも隣り合わせの状態であるがゆえ、人間が動物的で原始的な本来の力を超越する姿になる。「人間の本能的な部分を映し出すことを狙っています。その姿をフィジカルに感じてもらうよう描いた」と監督。
また、緊張感のある祭りのシーンの途中に、ほっとする和やかなシーンを挟むなど緊張と緩和のバランスも見事。辻本さんも「ほっとするシーンは観客に喜ばれることが多いです。祭りのシーンばっかりだと息抜きできませんからね(笑)」と話した。
世界各地の映画祭で上映されている本作。海外の観客の反応について「説明的なセリフがない分、どの国でも通じるところがある。あくまでもフィジカルな体験を描写する映画なので、祭りの知識がなくても楽しめる」と監督は語る。
辻本さんは、海外での盛り上がりに驚き「映画祭では多くのドキュメンタリー作品と一緒に上映してもらうことが多かったですけど、この作品が一番、監督への質問が多かった。海外の観客からすると不思議な映画だったんだと思います」と話す。
「この作品はサスペンスを巻き込んで展開します。ドキュメンタリーでもサスペンスは作れることを試したかった」と監督は世界に向けた挑戦的な作品だったことも明かした。
日本と海外、観客の反応の違いを通じて辻本さんは「海外の方が直感的に観ている。日本の観客は『ルールは?』とか『どっちが勝った?』などを気にする。監督は祭りの勝ち負けより、死を感じながら神輿を守る人間の戦いに着目しているんです」と語る。
監督も「普通のニュースでは神輿をぶつけ合う前方を撮影しますが、この作品では後方で神輿を支える人たち、神輿を守りながら戦う人たちを描いています。『人』対『人』ではなく、『神輿』対『人』なんです」と同調。さらに「神輿の中にいる神様にとり憑かれて行動を起こしているような様を撮りたかったんです」と力強く語った。
映画館の鑑賞を強く勧める2人。「神輿の音が響きわたる感じや低音にこだわったところなど、音でさまざまな意図を表現しています。映画館で観て聞くことで意味が伝わるはず」と断言する監督。
辻本さんは「僕もそうだったんですが、2,3回観てはじめて意味がわかる部分もある。観ていると喉の奥から熱くなってくる。何回観ても同じように感じるんです。そんな映画は、ほとんどないと思います」と仕上がりに太鼓判を押し、「この作品を通じていろんな人にこの祭りを体感してほしい」と大阪での上映に向けて本作をアピールした。
『渦』も上映される『デンジャラス・ドックス』は、11月18日(土)より12月15日(金)まで、シネ・ヌーヴォにて公開。初日18日(土)は舞台挨拶、19日(日)と22日(水)にはトークショーも開催される。
『デンジャラス・ドックス』予告編 |
詳細情報 |
■上映日程 11月18日(土)~12月15日(金) ※以下の舞台挨拶。トークも予定 11月18日(土)18時35分の回上映後 ガスパール・クエンツ監督、辻本好二プロデューサー 11月19日(日)18時35分の回上映後 11月22日(水)18時35分の回上映後 ■映画館 ■サイト |