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第3回 ドーナッツ的 字幕翻訳の楽しみ方/映画で旅するイタリア2017 旅のしおり

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知ることのなかったメンバーの心の内に触れられるということで、この連載の更新をドーナッツクラブの面々が一番楽しみにしているということが、先日の会議で発覚した。映画の旅への出発まで一カ月をきり、メンバーは旅の友を集めるのに忙しい。一方、意外に思われるだろうが、日本語字幕がついた完全版の上映素材もようやく仕上がりが見えてきた。大丈夫、納期には間に合わせますよ、他のメンバーがね。

さて、連載三回目の今回も、字幕翻訳についてお話したい。

字幕翻訳は一人でなければできないと聞いたことがある。話の流れや登場人物を複数人で解釈して、一本筋の通った作品に仕上げるのには無理がある、と。でも、ドーナッツクラブでは複数人のグループで字幕翻訳に取り組む。一人の場合と比べると余計な作業も増えるが、きっとグループならではの良さもあるはず。三人ほどで分担して下訳をし、二人程度でまとめの作業にあたる。三人寄れば文殊の知恵。たとえ一人が煮詰まってしまっても他の人が閃くこともある。それに、きっと誤訳も防ぎやすいはず。ちなみに、私セサミは下訳班なので、この先は下訳の話が中心になることを断わっておく。

下訳班はいわば翻訳最前線。まず何よりも映像と、そして大抵の場合、映画台本が支給される。本国イタリアでDVD化されているものであれば、聴覚障害者向けに、あるいは視聴者の理解を助けるために原語の字幕を表示できるものが最近は多く、これがあるととても助かる。字幕の切り替わるタイミングがイメージできるため、どのタイミングまでにどれだけの台詞を言わせるかとか、台詞に「間」のある箇所だとか、翻訳に取りかかる前に映像と台詞のつながりを確認できるわけだ。だけど、台本にない台詞を俳優がしゃべっていたり、原語字幕もないなんて場合は大変だ。台詞を聞き取り、自ら文字に起こさないといけない。外国語学習で書き取りの経験がある人にはわかってもらえるだろうが、あの作業はできる限り、御免被りたい。

字幕翻訳には言葉や文化に関する知識が求められるが、いわゆる文芸翻訳とは別物だと考えた方がいい。字数が制限されるし、文字よりも映像を見せたいから、必ずしも原語の台詞を忠実に訳すのが重要ではない。映像や音で理解できるだろう台詞はできる限りそぎ落とし、シンプルなものを目指す。でも、日本の観客には説明が必要な台詞もあるし、言葉選びの妙を伝えたいものもある。わかりにくいカタカナ語を敢えて残して、雰囲気や音を生かしたい場合もある。

そうこう悩みながら下訳班が先陣をきる。以前は下訳班の中で連絡を取り合って、登場人物の名前やキーワードに共通の日本語を当てようなんて、健気に取り組もうとしたこともあったが、それも遥か昔の話。いまやそんな余裕はなく、それぞれが思い思いに訳している。それらがまとめ班のところに届くわけだ。だから、下訳から完成形を目指すまとめ班の荷がますます重いのは承知している。彼らは学生時代と同じように、夜な夜な字幕翻訳合宿を張っているという噂も聞こえてくるくらいだ。とはいえ、それは聞こえないふり。まとめ班が私の「遊び」をどこまで残すかしらと、許容範囲を探りながら黙々と自分の仕事で遊ぶ。私は原語のこの表現をあきらめるけど、うまく仕上げてほしいなんて願いも時々込めながら。

いま、「映画で旅するイタリア2017」の予告編がドーナッツクラブのHPなどで日本語字幕付きでご覧いただける。あれを客観的に観て私はニヤリとした。予告編と本篇では、同じシーンでも同じ字幕をそのまま使うのは難しいはずだよ、きっと辻褄が合わなくなっちゃうから、と。まとめ班が本篇の字幕をどう仕上げるのか、どう辻褄を合わせるのか。他のメンバーの工夫を見るのはグループで字幕翻訳に取り組む我々にとって、かけがえのない醍醐味なのだ。

執筆:セサミあゆみ
1983年、広島県生まれ。心のふるさとは奥出雲。ピタゴラスの歩いた町を眺めつつ遊学し、大阪大学にて言語学で大学院博士前期課程修了。現在、料理学校に勤務。キーワードはイメージとことば、暮らしと食。

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