戦前の台湾で生まれ育ち、敗戦により強制送還された日本人の、故郷・台湾への思いを馳せる姿を追いかけた黄銘正監督のドキュメンタリー映画『湾生回家』が、11月26日(土)より大阪のシネ・リーブル梅田で公開されている。
『湾生回家』(2015年)は、台湾の黄銘正(ホァン・ミンチェン)監督が手掛けたドキュメンタリー作品。「湾生」とは、戦前の台湾で生まれ育った約20万人の日本人のことを指す言葉。彼らにとって台湾は紛れもなく我が故郷であったが、敗戦により強制的に日本への帰国を余儀なくされた。本作ではそんな彼らのうち6名の故郷・台湾に馳せる思いを追いかけている。
2015年に台湾で公開され記録的な大ヒットとなったほか、台湾アカデミー賞「金馬賞」の「最優秀ドキュメンタリー作品」にノミネート。また2016年に開催された「第11回大阪アジアン映画祭」のオープニング作品として上映され、同映画祭にて「観客賞」を受賞した。
黄監督が本作を手掛けることとなったのは、2013年1月にプロデューサーの范健祐(ファン・ジェンヨウ)さんからの「この作品を撮ってみないか」というオファーがきっかけだという。その時初めて「湾生」という言葉を知り、「小さいころからの環境で日本に対してとても良い感情を持っており、とても親しみがあったので、撮影に加わりたいと思いました」と黄監督。
撮影期間は1年半から2年程、その間日本と台湾を行ったり来たり。元々は40名程の湾生を追いかけていたが、最終的に冨永勝さん、家倉多恵子さん、清水一也さん、松本洽盛さん、竹中信子さん、そして片山清子さん6名のエピソードへと絞り込んだ。その理由について黄監督は「歴史をなぞるようなものではなくて、感情というか、心の中を表現してくれる話を聞きたかったんです。そういうお話をしていただけたのが、あの6名でした」と撮影当時を振り返った。日本語で直接交流することができないという点では非常に苦労したという。
作品のタイトルについてのエピソードも。「最初『南的零年(=南の零年)』という案があったのですが、これは却下だと」その理由として「日本映画で、北海道を開拓した時のことを描いた『北の零年』という作品があり、もし『南の零年』としてしまうと、日本が台湾を開拓したという話になってしまうと思ったから」と話す。更に「そのタイトルだと、日本人の観点で台湾を描いてしまうことになり、意味が異なってくるからです」と話した。
ほとんどは実写の映像であるが、ところどころアニメーションが効果的に使用されている本作。アニメーションとの融合については監督自らの発想だという。
好きな場面については「沢山あります」と前置きした上で「冨永さんが冬に自転車でうどんを食べに行ったり、亡くなった奥様の仏前で拝んだりしているシーン、家倉さんが浜松で自分の人生を振り返っているシーン、また清水さんがお墓に行くシーンや岡山の市役所で調べものをする時に、泣きそうになるのをぐっとこらえているシーンなど」と振り返る。撮影からだいぶ時間が経過した現在でも、鮮明に記憶に残っている場面が多数あるという。
日本での公開が決まったことについては、「沢山の日本の方に観ていただきたいです。日本と台湾とは文化的に非常に微妙なところがあり、それはなかなか言葉では言い表せられないのですが、もしかするとこの作品の中で感じ取っていただけるのではないかと思うからです」と呼びかけ。「この作品は、教科書の中や歴史の中だけのことではなく、自分たちの生活の中で、人生の疑問に答えるような部分があるので、そういうところも観ていただきたい。政治と経済のような硬いものではなく、この時代を生きた人の優しさを伝えたい」と締めくくった。
映画『湾生回家』は、11月26日(土)より、大阪・シネ・リーブル梅田、奈良・ユナイテッド・シネマ橿原にて公開中。12月17日(土)からは京都シネマにて上映、その後、神戸・元町映画館でも公開されることが決定している。
映画『湾生回家』予告編 |
詳細情報 |
■上映日程 ・シネ・リーブル梅田、ユナイテッド・シネマ橿原 11月26日(土)~ ・京都シネマ ・元町映画館 ■映画館 京都シネマ 元町映画館 ■サイト |