韓国発、大阪の伝統芸術部の奮闘描く『でんげい』　大阪先行公開、監督が舞台挨拶

11月5日（土）、大阪の在日韓国人の学生たちの奮闘を描いたドキュメンタリー映画『でんげい』の初日舞台挨拶が九条のシネ・ヌーヴォで開催。チョン・ソンホ監督のトークショーが行われた。

『でんげい』のチョン・ソンホ監督

『でんげい』（2015年）は、韓国・釜山のMBCテレビ局のプロデューサー、チョン・ソンホ監督が手掛けたドキュメンタリー。在日韓国人の学生たちが、韓国・朝鮮の伝統文化を懸命に練習し、全国大会にて発表する姿を追ったもの。
2014年7月27日から31日に開催された第38回全国高等学校総合文化祭「いばらき総文」の伝承芸能部門に、大阪府代表として大阪市住吉区にある白頭学院建国高校の伝統芸術部が選出。ほとんどの出場校が日本の伝承芸能を披露する中で、韓国・朝鮮の伝統文化「地神パルキ」を発表する高１から高3までの9名の学生たちの、大会に向けて厳しい練習に耐える姿、またその家族の思いを映し出している。

舞台挨拶の冒頭、チョン監督が「この映画の本当の主人公が来られています。白頭学院建国高校の伝統芸術部のみなさんです」と紹介。学生たちが登場し、監督へ花束の贈呈を行った。
この作品を手掛けることとなった経緯について「最初は、ある朝鮮学校の運動会を取り上げようと思い来日したのですが、諸事情により撮影許可が下りませんでした。残念に思い現地コーディネーターに相談したところ、建国高校でも運動会が行われるというのを教えていただき訪問しました」と話す。そしてその時、校長先生から「運動会もいいのですが、10年以上大阪代表として全国大会に出場している伝統芸術部という素晴らしいものがあるので、案内しましょう」と言われたという。そこで練習場所を訪れ、実際に学生たちの練習風景を目の当たりにした。「2月の寒い日に皆さん半袖、半ズボン姿で汗を流しながら練習されていて本当に驚き、無条件にこれを撮ろうと決心しました」とチョン監督。韓国で改めてきちんと準備をしてから、再度来日することにしたという。

その後、まずテレビのドキュメンタリー番組として、制作された同作が、今回こうして劇場公開へつながった。「韓国でテレビ用に制作されたドキュメンタリーが劇場で公開され、それが日本の劇場でも上映されるのは、初めてのこと。信じられないことが起きたと思いました」と、驚いた気持ちを振り返る。タイトルについては3度変わったといい、「最初の韓国のテレビ用のドキュメンタリーの際には『17歳、鮮華（ソナ）の挑戦』でした。韓国で劇場公開することになり、インパクトが弱いのでタイトルを変えた方がいいという投資家たちの意見を受け、『いばらきの夏』に。そして日本で劇場公開してくださることになり、色々考えた末、『伝統芸術部』を学生の皆さんが略して『でんげい』と言っているので、それを映画のタイトルにした方がいいのではないかという話になり『でんげい』となりました」とタイトルについてのエピソードも公開。「『でんげい』としたのにはもう一つ理由がある」と同作の日本公開を手掛けるキノ・キネマの岸野さん。「『いばらきの夏』と聞くと、大阪の人だったら『茨城県』ではなく、『茨木市』のことだと思ってしまうなと思いまして」と地域性についても触れ、「あと、『でんげい』と聞くと、『えっ、これ何？』というところから逆に興味を持ってもらえるかなと。思い切って変えてみました」と振り返った。

テレビでの放送時には、2部構成であった本作。映画用にするために「実は8回編集し直しました」と編集時の苦労を語った。映画用にするために要らないところを削ったため、時間が短縮されたという。しかし「子供たちが誕生日パーティをする部分については、映画用に新たに加えたシーンです」と言い、その理由として「韓国のドキュメンタリー番組は深刻な様子のものが多い。最初テレビ用にも入れていたのですが、編集過程で削ったんです」と韓国特有の事情があったことを明かした。

最後にチョン監督は「在日韓国人のみならず、日本人にも観ていただきたい作品です。在日韓国人が日本でどのような思いで根を下ろして子供たちを育てているのかということも、この映画を通じて理解してもらえると思うからです」とPR。「日本の方がご覧になっても説明なしで子供たちの成長を感じていただけると思います。子供たちが受験で大変な時期にしたいことを一生懸命やるということは、後々大きな力になる。そういうメッセージを子供たちだけでなく、大人たちにも残せるのではないかと思います」と締めくくった。

映画『でんげい』は、11月5日（土）より大阪・九条のシネ・ヌーヴォにて先行ロードショー中。以降、神戸・元町映画館、京都みなみ会館で公開予定。