塚口サンサン劇場の改革10年を記した人気連載! 書籍も発売中!

連載コーナーはこちら

『トークバック~沈黙を破る女たち~』をイラストレビュー/ペンギンシネマ放談 vol.05

illust
今回の作品は、ドキュメンタリー映画『トークバック~沈黙を破る女たち~』です。

 
HIV / AIDSは「偏見の病」なのではないか。
サンフランシスコの女性専門のHIVの医師・Dr.エディ・マッティンガーは、長年ある疑問を抱いていました。
彼の患者で最近死亡した7人の感染者がいました。そのうち2人は自殺。
他の2人は薬物の過剰摂取。2人は他殺で、そのひとりは夫による殺害。
もうひとりの若い女性は服薬拒否で命を落としました。
つまり、AIDSが原因で死亡した患者はひとりもいなかったのです。

Dr.エディはこう考えます。
病気を隠すことが患者を孤立させ、うつ状態に追い込んでいるのはないかと。
HIV / AIDSは偏見の病なのではないかと。

そこでDr.エディはロデッサ・ジョーンズに「刑務所の演劇メソッドをHIV陽性者にも試してほしい」と依頼します。
ロデッサは刑務所で女性受刑者に「自らの体験を演じるワークショップ」を教えていたのです。

こうしてHIV陽性者が自らの体験、苦しみ、悲しみを演劇に昇華させる劇団「メデア」が生まれました。
映画『トークバック~沈黙を破る女たち~』は、このメデアの映像を交えながら、演者であるHIV陽性者の一人一人の姿を追ったドキュメンタリーです。

トークバック2
©Kaori Sakagami

沈黙を破る元受刑者やHIV/AIDS陽性者たち
映画では、メデアの演者である8人の女性にスポットを当ててインタビューをしています。
全員・元受刑者やHIV/AIDS陽性者ですが、実に様々なタイプの女性が出てきます。
人種も違えば、HIVの感染経路も様々です。
薬物使用が原因もあれば、売春、または留学先での暴行が原因の女性もいます。

ただ、共通している点は、メデアに来るまでは自分の人生を悔い、恥じていた点です。
そして、メデアで芝居を通して自分と向き合い、変わっていきます。
あまりにも舞台で堂々と演じているために「この人は元から、このような性格だったのではないか?」と考えてしまいますが、舞台を見た演者の親友が「彼女のこんな姿は初めて見た」と涙をするシーンから、いかに本人が変っていったのかが分かります。

トークバック
©Kaori Sakagami

トークバック・セッション
劇団メデアでは、公演の直後に「トークバック」と呼ばれる、観客との質疑応答の場が設けられます。
このセッションは、観客と演者の間で行われる単純な質疑応答では終わりません。
劇に影響を受けてしまうのか、観客も自らの悩みをカミングアウトし、お互いに呼応する場となっているのです。

同作監督の坂上香さんは、このメデアのトークバックに感銘を受けたそうです。
そして、映画のタイトルに取り入れるだけでは留まらず、この映画の上映後に、観客と実際にトークバック・セッションを開いているそうです。
はじめは戸惑っていた観客たちも次第に心を開き、ついには時間が足りずに映画館の外でも続けるほどの盛り上がりだったとか。

アメリカが舞台の作品なので、薬物使用に悩む姿などには「日本とは違うんだな」と少し距離を置いて観てしまうかもしれません。
しかし、このトークバック・セッションの盛り上がりからは、「自分の体験を社会の中で活かす場、語る場がない」という問題が日米共にある、という共通点を感じました。

その他の地域の上映でも、ゲストを読んでトークバック・セッションを開いている場所もあるそうです。
セッションがなくても、親しい人と一緒に見にいき、上映後に自分たちでトークバックをしてみる、というのも良いかもしれませんね。

■参照リンク
『トークバック 沈黙を破る女たち』公式サイト
http://talkbackoutloud.com/
演劇で自身と向き合う姿描く 『トークバック 沈黙を破る女たち』上映[ニュース]
http://www.cinepre.biz/archives/12861

(ブログ「着ぐるみ追い剥ぎペンギン」さまからの寄稿です)