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間章 数々の塚口流伝説・エピソード


第4章「パシリム激闘編」で紹介した、「今日は勝てる!」の言葉。
お客さんがクリエイティブな消費、つまり「自分で楽しみ方を見つけていく」ということを進めていったエポックメイキングな出来事であり、いまでは塚口サンサン劇場の“伝説”の1つとなっている。

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そしてこの劇場にはほかにも、お客さんの間で語り継がれている伝説的なエピソードがたくさんあるのだ。

一番多いのはマサラ上映と、重低音上映についてだ。
まずマサラ上映
紙吹雪やクラッカーが必要だが、どんどんその消費量が増え、近隣の100円ショップでは紙吹雪用の紙やクラッカーがなくなることが相次いだという。
さらにそのクラッカーの大量消費を聞きつけたクラッカーメーカーの営業担当が劇場を訪れ、特大クラッカーをプレゼントしてくれたというから驚きだ。

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特大クラッカーを撃つ岩浪美和音響監督(塚口サンサン劇場ツイッターより)

重低音もエピソードが豊かだ。
『ガルパン』などの重低音特化の作品の時、音響調整では床や天井に振動が伝わるのはもちろんのこと、サンサン劇場が入っているビル全体が震え、3軒先の銀行も揺れたという。
(だが近隣の人は最初、道路工事だと思い、苦情は来なかったそうだ。もちろんいまでは説明して了解を得ている)

極めつけの「低いインテリジェンス」的なエピソードとしては、そうした重低音の映画を地上1階のシアター4で上映する時、その地下にあるシアター3の営業を取りやめることがある、というのがある。
重低音が上映中に響くのが鑑賞の邪魔になるから、ということだが、映画館のスクリーンが1作品ずっと上映休止、というのは、回転数を上げてビジネスを頑張るのが当たり前の映画館業界の中でも異例な話だ。
(しかも休止するシアター3は、サンサン劇場の中でも最大キャパのスクリーンだ)

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あとは飲食店とのエピソードも豊富だ。
『プロメア』上映時には、同作に合わせて周辺の飲食店からマルゲリータ・ピザが売り切れた。デリバリー・ピザの提携もやった。
『ガルパン』の際には近隣の鮮魚店に「あんこう鍋」(しかもちゃんと作品の舞台の茨城県のやり方で調理)を作ってもらったりした。

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こうしたこともあり、近隣からはもうすっかり「ちょくちょく変わったことをやる映画館」としておなじみになった。
理解があることから、連携も進みやすいし、コスプレ姿の人が集まっていても「また何かイベントがあるんだな」と思ってくれる。
(「あんこう鍋」を依頼した店は、ご自身もガルパンファンということもあり、戸村さんが電話をかけてすぐに「あんこう鍋ですね、わかりました」と即答したという。)

第6章「前説芸人編」の最後で紹介した「DJイベント」も、今でもよく話題に上る。
映画館の、しかもシアター内でパーティイベントをやる、なんていうことは、他の映画館では見かけなかった光景だった。色とりどりのライトが舞い、映画音楽が鳴り響く空間を、多くの人が堪能した。

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そして最たる伝説の1つは、ほら貝だ。
2019年3月に『映画刀剣乱舞』の上映を行った時、全国で「応援上映の時にほら貝を吹くと盛り上がるはず」という声が多かった(だが実際にOKを出す映画館は、当然ながらなかなか現れなかった)。
それを知った戸村さんらが、「上映中はNGだけど、開場の合図としてならOK」と告知したことが話題になり、なんと3名のほら貝持参者が来館。実際に開場に合わせて吹いてもらった。
このエピソードは、SNSで拡散されたほか、ホーム社の人気マンガ「邦キチ!映子さん」でも触れられ(第3巻の番外編に収録)、しばらくはGoogleで「塚口サンサン劇場」と検索したときの追加予測に「法螺貝」が入るなど、多大な反響を呼んだ。

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こうしたエピソードを面白く思い、他の人たちに伝えるのも、サンサン劇場ファンのささやかな楽しみの一つだ。
「こんな変わった映画館なんだけど、すごくいいんだよ」
ってことをお客さんが日々拡散してくれている。

冒頭で、「今日は勝てる!」に代表されるような、お客さん自身が楽しみ方を創意工夫していくという遊び方がある、と書いたが、そのうちの一つとして
「サンサン劇場の良さをどう知り合いに伝えるか」
をみんなが頭を悩ましながら考えていく、というのがあるのではないだろうか。

これまでいろいろ書き連ねてきたように、この映画館は「情報量が多い」
マサラ、特別音響、前説、コスプレ、ダンボール、ツイッター、アプリ、トイレ、フィルム上映、上映作品数、番組編成などなど。
だからこそ何を取捨選択して、自分たちの「推し映画館の魅力」を他人に伝えるかをファンたちは考えているし、それは劇場側が自分で発信するよりも強い説得力を持って、更なるファンの獲得につながることになる。
昔から言われていることだが、「知り合いの口コミに勝るものはない」のだ。

ちなみにディズニーランドやUSJ、iPhoneなどのアップル製品といった、革新的で人気のあるモノや場所に共通していることに、「勝手に人が宣伝してくれる」というものがある。
そしてこれは、サンサン劇場についても同様だ。
上記で紹介したような伝説エピソードは、いつもお客さんたちが広めてくれてきたし、いまでもずっと、「この映画館はすごくいいんだぞ」と知り合いにオススメする人たちがたくさんいる。

それが、「愛される映画館」になった理由の一つなのだろう。

コロナ禍を迎えて、こうした「伝説エピソード」はそこまでポンポン生まれなくなってしまったが、いまでもファンたちは、「また塚口サンサン劇場は何かやってくれるに違いない」と期待をふくらませている。