塚口サンサン劇場の改革10年を記した人気連載! 書籍も発売中!

連載コーナーはこちら

第10章 おもてなし編「空に穴を開けよう」4/4

塚口サンサン劇場のモットーとして、掲げられている言葉がある。
「ホスピタリティは高く、インテリジェンスは低く」
2018年頭頃から明確に言ってきた志で、2020年8月には、そのモットーが記されたTシャツを作った。(現在も販売中)

s1004a
塚口サンサン劇場インスタグラムより

「インテリジェンスは低く」の部分は、これまでに記してきた様々な出来事が表している。

その場のノリと雰囲気でイベント・企画を即決し。
マサラではびっくりするほどの量の紙吹雪とクラッカーを消費し。
重低音ウーハーは館全体や近隣施設を震わせるほど鳴動し。
コスプレをしたお客さんとスタッフがはしゃぎ。
前説では他に類の見ないパフォーマンスが披露され。
DJイベントなんかもやっちゃって。
4スクリーンしかないのに年間300本以上上映し。
アプリとツイートもノリノリで配信し。
ほら貝が鳴ったこともある。
そんな塚口サンサン劇場は、確かに戸村さんが「インテリジェンスが低い」と自虐するほどに、「ノリと楽しさ」に満ちあふれている。

se01b

s0604c
(写真提供:関西キネマ倶楽部)

だが実は大事なのは、「ホスピタリティは高く」のほうだ。
そして実は「低いインテリジェンス」はある意味全て、この「高いホスピタリティ」のためのものなのだ。

紙吹雪やクラッカーを大量消費するのも、その方がお客さんが楽しいからだ。
重低音が爆発するのも、それを求める人たちがいてくれるからだ。
スタッフがコスプレするのは、お客さんのテンションが上がるからだ。
前説をするのは、応援上映やマサラ上映をよりもりあげたいからだ。
300作品以上怒涛に上映するのは、それだけ観てほしい映画があるからだ。

スタッフたちの個性については次章で詳しく述べることにするが、塚口サンサン劇場で働いている人たちはみんな、この「ホスピタリティ」が飛びぬけている。
例えば『ラ・ラ・ランド』のイベントの時は、お客さんと一緒に手を交差させるポーズをしてくれる。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の時は、一緒に「V8!」と叫ぶ。
『ブルースブラザーズ』の時は、全員黒いサングラスをかける。
『キングスマン』の時は、スーツでびしっと決める。

se01e

s040e

マサラ上映時は、手持ちがない人のために劇場内でクラッカーや紙吹雪を配り、みんなが笑顔で楽しめるようにする。

これは、各スタッフが「映画の細部までしっかり把握している」からこそできるサービスだ。
それがお客さんにも伝わることで、「ああ、自分が好きな作品を、スタッフも好きでいてくれているんだ」と感じられることが、とてつもなくうれしいのだ。

もちろんイベントの時だけではない。
普段の上映でもそうだ。
映画のタイトルがわからないお客さんがいれば、ちゃんと相談に乗る。
オススメ作品を聞かれた時も極力アドバイスをする。
チャイルドシートやブランケットも完備している。
聴覚過敏の方や子どもには、イヤーマフを貸し出せるようにした。
踊り場には映画の魅力がわかりやすく掲示されている。



それでトイレはホテル並みにきれい、音響調整は抜群に良い、となったら。
何度も通いたくなるのは当然のことだ。

「みんな映画が好きで、そしてそれ以上に『お客さんが映画を楽しんでいる』のを見るのが好きなんですよね」
ある時、戸村さんとそう話したことがある。
映画館は映画が好きな人が働く場所。それは間違っていない。
だがそれに加えて、「映画を楽しむ人たちを好きでいること」。
それが、塚口サンサン劇場で働く人たちに共通していることなのかもしれない。

次章は、いよいよこの連載最後の章となる。
お客さんに映画を楽しんでもらうために個性を爆発させるスタッフたちに、ご登場いただければと思っている。