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第8章 二刀流上映編「絶望を照らす、ひとすじの光」4/4

前項で述べた小説『波の上のキネマ』。
これが発売されたことで実施された特集上映がある。
喜劇王チャップリンの名作上映だ。
この小説には様々な映画が出てくるが、とりわけチャップリンの『街の灯』が重要な意味を持っていた。
それを踏まえて、せっかくならこの機会に映画館で観ていただこうと、発売直後の2018年10月からチャップリン特集をスタート。毎月1作品、合計8作品を上映した。
もちろん最初は『街の灯』。そのあと、『モダン・タイムス』『黄金狂時代』『キッド』『サーカス』『殺人狂時代』『ライムライト』『独裁者』と、チャップリンの代表作をずらりと取りそろえた。
(ちなみにフィルム上映ではなく、ブルーレイ上映だった)

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チャップリンに限らず、過去の名作は、フィルムでしか残っていないか、ブルーレイなどのデジタルに変換され、きれいになっているかのどちらかだ。
こうして塚口サンサン劇場は、過去の名作を、フィルム・デジタル、時にはブルーレイも駆使しながら多彩に届ける複合ジャンルの映画館になっていった。

このようなごった煮状態を、戸村さんは「幕の内弁当のように考えている」という。
色んな具材が入っている、見るのも楽しい弁当。そして誰でも、どれか1つは好きな具がある。
映画館も同じようにしたい。
旧作・新作の区別なく。
アニメ・実写の境なく。
大衆向けと単館系の分け隔てなく。
つねに色とりどりの作品が、場所を彩るようにしたい。
そのために、デジタルとフィルムの「二刀流上映」は不可欠だった。

そしてこの二刀流上映が可能にしたのが、サンサン流とも呼ばれる自由な番組編成のラインナップだ。
時にファンの期待を上回る作品の上映を実現させ、時にファンの知識欲・好奇心を十分に満たしてくれる作品を提供する。
それを迅速に果たしていくために、いまでもサンサン劇場では35ミリフィルムの映写機が、出番を待っているのだ。

事実、この35フィルム映写機は、このデジタル全盛の時代だというのに、驚くほど活躍した。

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『シン・ゴジラ』など新作に合わせて、ゴジラやガメラなどの往年の特撮映画を届けるときも。
平成の終わりに、『踊る大捜査線』を上映した時も。
『ジョゼと虎と魚たち』のアニメ映画にそろえて、旧作の実写をかけた時も。
毎年正月に、渥美清主演・寅さんの『男はつらいよ』シリーズをかけるときも。
時代劇アクション映画の金字塔『るろうに剣心』の時も。
(この時は、第2章で触れたように、「フィルム上映を観たい」という谷垣健治アクション監督が来館するキッカケとなった)

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スタッフが企画した「35㎜実写漫画大全」という特集をやったこともあった。
マンガが実写化された映画を35ミリフィルムで上映する、というもので、2014年に全シアターが基本的にデジタル機材に切り替わり、フィルム映写機は不定期で使用する、という体制になる直前のこと。
フィルム常設の最後のタイミングでせっかくなら、と開催された。

『女囚701号さそり』『ゴルゴ13 九竜の首』『ドカベン』『翔んだカップル』『野球狂の詩』『蛇娘と白髪魔』『ゲンセンカン主人』『青い春』『櫻の園』…6週間にわたって、合計12本の映画を上映した。

だがラインナップが上記のように“ある意味”偏っていたため、「迷作、珍作、怪作を取り集めた」と評され、話題を呼んだ。
むしろこうした作品は、配信にもレンタルにもなっていないことが多い。
ある意味貴重な企画だったわけで、それが功を奏し、注目されたのだ。
これが、先に紹介した「10人の映画監督と20本の不朽の名作」「10人のスターと、20本の輝く名作」から連なるフィルム上映企画となったわけだが、名作・名匠の作品に続く第3弾が正統派作品ではなくなったのも、ある意味塚口サンサン劇場っぽい話ではある。
さすが、2011年の転機が『電人ザボーガー』なだけはある、というところか。

ともかく、塚口サンサン劇場は、いまでもデジタルを主軸にしながら、時折フィルムを上映する「二刀流上映」を続けている。
次の章では、その守備範囲の広さから繰り出される怒涛の番組編成について、詳しく紹介しよう。