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第7章 特別音響編「見つけたよ、私の戦車道」1/4

第5章で紹介した、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のイベント上映
2015年8月22日の開催に合わせて、サブウーハーをレンタルし、重低音を増強した話を書いた。
それから現在につながる、音響についてのお話をお届けする。

まず最初はレンタルで重低音を強化するところからだった。

立川シネマシティが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』にあわせて重低音専用の高性能サブウーハーを活用した「極上爆音上映」を実施していた。
それを参考にしながら、戸村さんはライブハウスからサブウーハーを借りた。

爆発・銃撃・アクション・カーチェイスがふんだんにある同作に、ウーハーがうなりを上げる。
重低音を響かせまくった上映は、観客をより一層熱狂の渦に巻き込み、イベント上映以外でも足を運ぶファンが増加。
映画館だからこそ味わえる楽しみを届けることに成功した。

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「これは、新たな映画館の道の一つかもしれない」
塚口サンサン劇場はそう考えた。
その背景には、他の映画館にも共通する話だが、「自宅での映画鑑賞の充実」がある。

2011年の地デジ化推進以降、各家庭には大きな薄型テレビが増えた。
それまでは20~30型あたりのブラウン管テレビが多かったが、地デジ化に備えて買い替えが進んだ結果、リビングでは薄型テレビの32型が一番人気に。
2015年頃からは40型・50型あたりの大型テレビも多く購入されるようになった。
一方、高画質の「4Kテレビ」も2015年頃から飛躍的に売り上げが伸び始め、今では多くの人が導入している。

つまり、自宅でもそれなりの大きさと迫力の映画を楽しむことが可能になったのだ。

さらに2010年以降は、映像配信サービスも本格化。
2011年にHuluが上陸、2015年にはNetflix、Amazaon Prime Videoもスタートするなど、「自宅に居ながらにして、迫力のある画面で、映画が無数に楽しめる」環境が整いつつあった。

それに対しての差別化として、たとえば大手の映画館ではIMAXやドルビーシネマなどのプレミアムな観賞体験、4DXやMX4Dなどのアトラクション体験、3D映画の導入などが進められた。
(3D映画は、2009年の『アバター』以降精力的に作られたが、その後ブームは下火になった)
その中の一つとして多くの映画館が注目したのが「音響設備」だ。

自宅での音響を整えた映画鑑賞には、防音環境が必須だ。
だが単なる家庭ではなかなかハードルが高く、画面は大きいけどもそこまで大音量は出せない。特に日本の住宅事情ではなおさらだ。

そこに映画業界は一つの活路を見出した。
たとえば、『スター・ウォーズ』で知られるジョージ・ルーカスのルーカスフィルムの一部門として生まれたTHX社は、映画館の再生環境のチェックを行い、「THX認定シアター」と冠をつけることで映画館でしか味わえない音響環境を担保。

ドルビーによる音響設備の充実も進み、2012年にはディズニー・ピクサーの『メリダとおそろしの森』で初めて「ドルビーアトモス」が導入。2018年からはドルビーシネマも作られるようになった。

また一方で、吉祥寺で2008年に始まった「爆音映画祭」も人気に。もともと2004年からスタートした大音量での上映イベントを拡大したもので、以降全国の映画館やイベント会場で実施されていった。

前述の立川シネマシティでも、2011年の『THIS IS IT』あたりから音響調整を強化。2014年の『GODZILLA/ゴジラ』から「極上爆音上映」がはじまり、低音をパワーアップさせた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で人気が爆発した。

塚口サンサン劇場が、ウーハーのレンタルをきっかけに重低音強化の上映に目覚めたのは、そんなさなかのことだった。

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