塚口サンサン劇場の改革10年を記した人気連載! 書籍も発売中!

連載コーナーはこちら

第6章 前説芸人編「燃えていいのは魂だけだ!」2/4

2015年10月以降、“前説芸人”としてデビューした戸村さんだが、それが一番花開いたのは、2018年から2019年にかけての頃だ。
この頃のサンサン劇場でのマサラ上映、イベント上映では、必ずと言っていいほど、戸村さんの前説パフォーマンスが行われた。

例えば、『グレイテスト・ショーマン』
2018年2月と9月にイベント上映をした同作では、戸村さんは歌って踊った。
観客にも英語の歌だけど大合唱してほしい、そのためにテンションを上げてほしい。
だから戸村さんは、率先して壇上で歌った。
観客からプレゼントされたという衣装を身に着けて。
2回目では、影絵を組み合わせた映像を背景に流し、それに合わせてのドタバタコメディをパフォーマンスにした。

例えば『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』
コミック調の映像から、新宿の夜景が広がり、戸村さんが背を向けながら登場。
振り返り銃を構えたところで銃声が鳴る、というスタイリッシュなパフォーマンスで上映が始まった。

例えば『ベイビー・ドライバー』
劇中の雰囲気に合わせて「ラップをしよう」と思い立ち、「韻を踏む」ことの勉強からはじめて、毎晩歌詞を考えた。
そしてできた歌詞を、スタッフにも指導してもらいながら録音し、当日はその音と歌詞の映像を流しながら当て振りをした。

例えば『ハンターキラー 潜航せよ』
潜水艦が舞台の同作に合わせて、潜水艦内の雰囲気の映像を制作。
艦長に扮した戸村さんが乗組員に向けて話しているところに、攻撃を受けて大変なことになり……という、テーマパークのアトラクション顔負けの前説となった。

例えば『ボヘミアン・ラプソディ』
タンクトップ、つけヒゲ、革ジャンというフレディスタイルで登場した戸村さんは、フレディも顔負けの反りっぷりを披露した。
ライブエイドでの有名な「エーオ!」も、しっかりとした発声で観客のコール&レスポンスを誘い、盛り上げた。

これはのちの章でも述べるが、スタッフが制作する背景の映像もどんどん定番になっていった。
映像に合わせてパフォーマンスをやる、なんていう、ダンサーやアイドルユニットがプロとして取り組むようなことを、戸村さんと劇場スタッフは、「単なる上映のおまけ」なのに、真剣にやってしまった。

さらに恐るべきことは、「同じことを繰り返さない」ということだ。
ある程度フォーマットができたら、使いまわすのが普通だ。
ルーチンワークに落とし込むことで、精度が上がり、作業カロリーも減らしながら取り組むことができる。
だが一方で、お客様の満足度が高止まりしてしまうこともある。

だからサンサン劇場は、毎回真剣に、精度を高めながら新しいことをする、という道を選んだ。

真剣に、できることをとことんつきつめて、お遊びをする。
もちろんパフォーマンスの追加料金は取らない

s0602a
写真提供:関西キネマ倶楽部

それを戸村さんは「低いインテリジェンス」と自嘲する。
だが、それこそがサンサン劇場の神髄の一つであり、お客さんが熱狂する理由なのだ。

マサラ上映、コスプレ、応援上映、特別音響。
そうした要素は、塚口サンサン劇場以外にも、取り組んでいるところはいっぱいある。
前説だって、作品によってはパフォーマンス集団や応援チームが壇上に上がり、盛り上げるときもある。
(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ロッキー・ホラー・ショー』などでも専門の応援チームがある)
でも、劇場スタッフたちが毎回全力で前説パフォーマンスに取り組むような劇場は、私は日本全国見渡しても他に見当たらない、と断言できる。

次項では、そんな前説パフォーマンスが、大炸裂したある一日のことを紹介しよう。
時は、2019年9月7日
作品は、アニメーション映画『プロメア』だ。