2012年10月に開催された『桐島、部活やめるってよ』のトークイベントを皮切りに、サンサン劇場では様々なトーク企画が、この地下1階のスペースを活用して実施されていくこととなる。
戸村さんはそれを、「語る映画館」と名付けた。
「映画館が、人同士の語り合う場所、きっかけになるように」
という意味を込めたという。
だが私としては、もう一つ別の想いがあったのではないかと思っている。
「語る映画館」は、このあと2013年8月までの10カ月間、合計6回にわたって開催された。
1回目が『桐島、部活やめるってよ』、2回目が同じく『桐島~』でプロデューサーも含めたトーク。
3回目は『るろうに剣心』。4回目が『機動戦士ガンダム』。
5回目は溝口健二監督『近松物語』。6回目は「角川映画」。
『機動戦士ガンダム』の時
3回目の『るろうに剣心』の時は、こんなエピソードがある。
アクション監督を務めた谷垣健治さんが飛び入り参加し、会場を大いに沸かせたのだ。
谷垣さんは、ちょうど関西に仕事で来ていた。
その忙しい隙間を縫って、「どうしても『るろうに剣心』をフィルムで観たくて」とサンサン劇場を訪問。
前章で述べた通り、その頃には世の中の映画館の多くがデジタル上映に切り替わり始めていたが、サンサン劇場ではフィルムで上映していたのを聞いての来館だった。
「本当に少ししか時間がないんですが」と前置きしながら、ブルース・リーとジャッキー・チェンのアクションについて、刀のアクションの進化などのお話を展開。会場の熱に押される形で、約1時間様々な話を語ってくれた。
吉田大八監督や谷垣健治アクション監督がわざわざ兵庫県の尼崎にある映画館を訪れ、ファンに熱く肉声を届けていく。
それは作り手に熱い思いがあり、かつ劇場にも熱い思いのファンが集っているからこそ実現した企画だ。
そして何より、映画館にもその熱さをもって企画している人がいる、ということがこの動きを呼び込んでいるのかもしれない。
作り手と観客がともに響きあう熱さを、映画館自身が発信していることが、この3者が出会う場を生み出せている理由なのかもしれない。
「語る映画館」、と戸村さんが名付けた想いの裏を、私はそう読み取った。
そう、映画館も「語る」時代。
映画への想いを、作り手への尊敬を、観客へ届けたい気持ちを。
映画館のスタッフが先頭に立って、声を上げてリードしていく、そんな時代だ。
そしておそらくこの時期に、塚口サンサン劇場は、そういった映画館として戦い続けることを選んだのだ。
移ろいゆく時代と環境の中で、映画を届けるということをとらえなおし、戦う決意を固めたのだ。
以前戸村さんは、こんなことを話してくれた。
「作品というものを信じたいんです、ぼくは」
作品自体を信じるという気持ちがあるから、その作品をどう届けていくかを考えていけるという。
「作品には、必ず作り手が込めた思いがあって、こだわりがあって、届けたい相手がいます。それを、ちゃんと熱量を失うことなく届けるのが僕たちの仕事です」
今回の連載での各項目にわたって言えることだが、塚口サンサン劇場はいろんな方面で奇をてらっているように見えて、実はド直球だ。
作品を改変したり、変なものをくっつけたりしない。
「作品の良さが引き出される」
「作品本来の魅力に気づける」
「作品を新たな角度で見つめる」
「映画館で映画を観る楽しみを思い出す」
そのためのことをずっとやっている。
映画について、素直で実直なのだ。
それが、劇場に多くのファンがついている結果を生んでいるのだ。
そのために、作品の力を信じる。
そしてその良さを見つけて、それを大きく広げていく。
良いものをちゃんと届ければ喜んでくれる、そんなお客さんがいることも信じる。
それが、今の時代に求められる、映画館としての仕事であり、映画館としての発信だ。
「語る映画館」シリーズは、地下一階がロビーとしての利用されたり、展示スペース・コスプレスペースなどで活用されたりするのに伴い、実施する場所がなくなってしまったこともあり、現在はストップしている企画だ。
だが戸村さんは、また何かの形でやっていきたい、と常々話している。
2012年。
『桐島、部活やめるってよ』をきっかけとして、「映画の魅力を拡大するイベント」を手がけはじめた塚口サンサン劇場。
そして翌年2013年には、また新たなイベントの形が、花開き始める。
次章ではそのイベント上映の契機の一つ、「マサラ上映」について触れていこう。