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淡路島の映画文化絶やさずに―島内唯一の映画館洲本オリオンと、有志で上映会を企画する「島の映画やさん」インタビュー

兵庫県・淡路島の洲本市にある島内唯一の映画館「洲本オリオン」で映画上映会を企画している「島の映画やさん」。今回、洲本オリオンとこれまでの島の映画やさんの活動について、洲本オリオンの野口仁代表と島の映画やさんの山口賀生代表に話を聞いた。

オリオンtop

淡路島は、自然が多く海に囲まれていることから、これまで多くの映画やドラマのロケ地となっている。2015年に東京で行われた「映画やドラマのロケ地」と「ご当地グルメ」をテーマに、どれだけ多くの方がその地域を訪れたいかを競う『全国ふるさと甲子園』では、55地域の中から「兵庫県淡路島」がグランプリに選ばれるなど、全国的に注目を集めるエリアだ。

1960年前後の映画業界最盛期には淡路島全体で17館、洲本市だけでも7館も映画館があった。洋画を中心に公開していた「洲本オリオン」には洲本市出身である作詞家の阿久悠さんや俳優の笹野高史さんも学生時代によく通っていたという。

だが映画業界の変遷に伴って淡路島内の映画館も次々に閉館。近年は日本映画を上映する「洲本銀映」と外国映画を上映する「洲本オリオン」が営業していた。だが、現在のシネコンの隆盛により、ロードショー上映の維持が少しずつ苦しくなってきた。

最終的に「洲本銀映」が閉館し、淡路島内唯一の映画館として「洲本オリオン」が残った。「洲本銀映で公開していた日本映画もある程度上映する必要がある。外国映画と共に日本映画を上映しているとスケジュールがタイトになってきた」と洲本オリオンの野口代表は述べる。「劇場が2館あればできるのに、1館ならできないことがある。1館になって以降、基本的に外国映画のロードショー公開を優先し、合間に日本映画を上映する、という流れでやってきた。そのため、人気のある日本のアニメ映画をタイミングよく上映する機会がなく、次第にお客さんは島外の映画館に行くようになった」と野口さんは明かした。

洲本オリオンは、デジタル上映や3D上映も導入したが、時代の波に逆らえず、オリオンを含め洲本市内がロケにも使われた熊切和嘉監督の『夏の終り』を最後に、2013年に営業を一旦終了し休館状態となった。現在、淡路島でロードショー上映を行う映画館はなくなっている。

オリオン劇場

洲本オリオンの休館後、2014年6月に映画上映会企画を立ち上げたのが「島の映画やさん」の山口賀生さん。「『島の映画やさん』のコンセプトは“大人がやる本気の映画館ごっこ”。この活動テーマは、1.娯楽映画をやりたい、2.損をしない、3.上映する作品を自分自身が好きである」と山口さんは説明する。このテーマに合致したのが、アニメーション映画の上映だった。「子供向け映画の場合、親御さんも一緒に来てくれる。子供が親にねだって、映画館内で販売している食べ物を買ってくれる。骨太なテーマを持ち、大人も鑑賞する価値があるアニメ作品ならば、子供の付き添いで来た親御さんも一緒に楽しんでくれる」と山口さんは分析した。それを受けて、「島の映画やさん」は『ベイマックス』や『アナと雪の女王』の上映会を洲本オリオンで開催。「『アナ雪』は、日本中で大ブームと言われていたが、地方では、見ることができない人も存在していた。都会や郊外にあるシネコンにお客さんが集まっている一方で、地方にある小さな映画館はその恩恵にあずかれていないところもあった。それならばと、地方発の企画を実施してみた」と実施の理由を語る。2014年9月に2日間の上映を行ったところ、全ての上映回がほぼ満席の状態になった。

「映画館に来てほしかったのは、一般の人、映画を娯楽の一つだと考えている人、単純に楽しいと言ってくれる人。知り合いではない人が来てくれることに価値がある。それができるのがこうしたディズニー映画だった」と山口さんは振り返る。

その後「島の映画やさん」は、ディズニー映画以外にもチャレンジの幅を拡大。2016年のGWと夏に2回、『ガールズ&パンツァー』の上映会を開催した。2016年から2017年にかけての年末年始には大晦日年越し上映も実施し、計4回も上映会を行った。TVシリーズ全12話・OVA・劇場版の一挙上映の際には、関西エリアだけでなく関東方面からの来客もあった。山口さんは、『ガルパン』ホームページの上映劇場情報と毎日にらめっこしながら、全国で上映されていないタイミングを見つけ、上映会を企画したという。「みんなが観たいのに劇場で鑑賞できない、そんな期間を狙って上映すれば、お客さんが面白がってくれると考えた。一度面白がってくれれば、洲本オリオンや島の映画やさんをお客さんは憶えておいてくれる」と山口さんは考えた。

『ガールズ&パンツァー』の上映については塚口サンサン劇場によるイベント上映の取り組み、ウーファーでの重低音上映やクラッカーも掛け声、コスプレOKのマサラ上映などをキネプレで取り上げてきたが、こうした取り組みについて、山口さんは強く意識しているという。「淡路島にある『洲本オリオン』の場合、他でやっていないユニークなサービスをやらないと集客ができない」と実感。それが一挙上映につながった。「TVシリーズ全12話・OVA・劇場版の一挙上映を1日でやりきったのはサンサン劇場を含めても他にあまりない。一挙上映のために淡路島に行くことがお客さんにとってはネタにもなったのでは」と語る。

オリオン2人
洲本オリオンの野口さん(写真左)と、「島の映画やさん」の山口さん(右)

また、大きな看板を作成したり、登場人物のコスプレをしたりと、企画側がネタを用意すればさらに盛り上がるのでは、と山口さんは考えた。上映期間中は、ファンからのグッズを自由に置いたり装飾を施したりすることも受け付け、手作り感満載のイベントを作り上げた。

年越し上映の際には、塚口サンサン劇場からの逆注目も。サンサン劇場でのイベントで展示された手作りの戦車やグッズを洲本オリオンに送る、という援護射撃が行われるまでなり、その模様はTwitterでも広く拡散された。「商売気を度外視したお金のかけ方はできないが、手間はかける。そしてシネコンがやらないことをやる」と心構えを山口さんは語る。

オリオンガルパン

「洲本オリオンは休館していたがデジタル上映や3D上映の設備はあるので、いろんな企画ができる。施設の環境が整っており、休ませておくわけにはいかない」と話す山口さん。『ガルパン』一挙上映を行ったことで「自分の好きなものが淡路島で生まれる可能性があると感じた。誰かが自分と同じ気持ちを感じてくれているとうれしい」とお客さんへの思いを語る。

なお昨年末の上映会開催準備時、洲本オリオンの野口さんはこれまでの「島の映画やさん」の取り組みと集客実績を考慮しながら、兵庫県興行協会に対して「休館の取り下げ」を申し出た。「今後は、常時上映ではないが、洲本オリオンによる定期的な上映会を開催し続け、映画館の営業を頑張っていきます」と野口さんは話す。島の映画やさんの山口さんも歓迎し、「洲本オリオンの建物を壊さず、休館中も施設を維持されてきた野口さんの努力の賜物。もし『島の映画やさん』としての活動が洲本オリオン再開のきっかけに少しでも寄与しているとしたら嬉しい」と喜びを表した。今後も、映画館の灯火を絶やさぬよう、洲本オリオンは継続して上映会を開催していくという。

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