今回レビューさせて頂く映画は『アクト・オブ・キリング』です。
世界では既に公開されており、様々な映画祭で賞を受賞して(なんと50以上!)注目の話題作となっているドキュメンタリー映画です。
歴史上の虐殺者たち自らが作り上げる映画
映画の舞台はインドネシア。
この国では1965年9月30日に軍事クーデターが起きました。しかし、このクーデターは直ちに粉砕され失敗に終わりました。
クーデターの首謀者は共産党だと批難され、その後の2年間にインドネシア各地で推定では最大300万人ともいわれる共産党関係者が虐殺されました。
この一連の流れは「9月30日事件」と呼ばれます。本作の主人公格「アンワル・コンゴ」は虐殺を行った中心的人物で、現在もインドネシアで「国民的英雄」として優雅に暮らしています。
『アクト・オブ・キリング」では、オッペンハイマー監督がアンワル達に「あなたが行った虐殺を、もう一度演じてみませんか」と持ちかけ、アンワルは「自分の歴史映画が撮れる」「若い頃に憧れたギャング映画のスターになれる」と思い、実現した映画です。
アンワルは若い頃を思い出しながら楽しそうに「撲殺より絞殺の方が血がでないので楽に殺せる」などと、当時の殺人手法を喜びながら次々と再現していきます。
この「大量虐殺者が自らの殺人を演じる」という手法が本作の特長なのですが、想像以上に私たち観客に驚きと違和感を与えてくる事になります。
殺人の再演がもたらすもの
また、映画が進むにつれてアンワルにも変化が起こります。
共に虐殺を行った仲間と再会し、仲間が過去に対して精神的なダメージを抱えているのを知ります。
また、自分のある家族に良い所を見せようと、撮った殺害シーンの映像を見せれば、家族からは拒否されます。
映画制作が進むにつれ、ある時、アンワルは口を開きます。
「俺は罪人なのか?」
名前が公表できない映画のスタッフたち
ところで、オッペンハイマー監督はアメリカ人なのですが、もしこの映画を持ちかけたのがインドネシア人だったら、アンワル達は、この企画を受け入れたのでしょうか。
恐らくアンワル達に「映画の本場アメリカの監督が撮ってくれる」といった思いがあったからこそ、映画スター気取りで殺人シーンを演じさせる事が実現できたと思います。
こうした企画が実現できた先進国・発展途上国という関係性も、個人的には興味深かったりします。
ともあれ、政治的な問題も深く関わっていることから、この映画は実現が大変な困難だったのは想像に難くないでしょう。
エンディングのスタッフロールで流れる「Anonymous(匿名)」の多さには唖然としました。そして、危険を恐れずにこの映画を撮った熱意に最後まで打たれました。
■参照リンク
『アクト・オブ・キリング』公式サイト
http://www.aok-movie.com/
加害者自らが大虐殺を再現 話題作『アクト・オブ・キリング』関西へ[ニュース]
http://www.cinepre.biz/archives/11631
次回は5月5日(月)更新予定。お楽しみに。