「ミニシアターの中の人」番外編。キネプレ編集部による、「中の人」インタビューです。
京都の「東寺」駅から歩いて3分。そこにミニシアター「京都みなみ会館」がある。
1階の壁には大きく「Mögen Sie Kino?」の言葉。ドイツ語で「映画は好きですか?」という意味らしい。「はい、好きです」と思わず元気に返事したくなる建物だ。そんなワクワク感を覚えながら階段を上ってロビーに向かう。
近くには専門の駐車場と駐輪場があり、無料で利用できる。映画館全体で、「気軽に寄っていってください」という気持ちでおもてなししてくれているような気がする。それが嫌みでなく、心地よい。
インタビューに答えてくれたのは、営業担当の吉田さん。現在、館長が不在のため、まだ20代ながら宣伝や番組編成など、多くの業務を任されているという。
吉田さんの“京都みなみ会館歴”はようやく5年目に突入しようというところだ。京都造形芸術大学の映像学部を卒業し、そのまま就職した。それまでは映像を作る側だったが、今では観客に届ける立場だ。
京都みなみ会館の開館は1964年にさかのぼるという。でも「当時のことを知っている人がもういないんですよね」と吉田さんは言う。リニューアルしたのは1988年。その時に現在の「京都みなみ会館」に改称。それから2010年までは映画上映会社RCSと提携し、さまざまな企画を打ち出してきた。京都みなみ会館名物とも言える「オールナイトイベント」も、このとき生まれた。
RCS時代から続いているというオールナイトイベント。当時から通ってくれているお客は、今でもオールナイトを求めているという。それが、RCSとの提携が解消した現在も行っている理由の一つだ。
でも、と吉田さんは付け足す。
「オールナイトのようなイベント性のあるものだと、若い方も来てくれるんです」
普段の上映時間中に、たとえばゴダールのような良質の作品を上映しても、学生の観客は減少しているという。それは世の中全体で言われている「映画離れ」と無関係ではない。だが、それを「オールナイトイベント」として打ち出せば、学生も観に来てくれるというのだ。「そういうワクワクするキッカケで、映画と触れ合ってもらえれば」と吉田さんは話す。
オールナイトはスタッフももちろん夜を徹して仕事に追われる。吉田さんにとっても負担は軽くないはずはない。でも「月一ペースでできたらいいですね」とさらっと話す。そこには「多くの人が映画に触れるきっかけを作りたい」という思いが垣間見える。
「どうしても京都みなみ会館で観たい、とたくさんの人に思わせたい。そのためにいろんな催しはどんどん打ち出していきたいですね」
そう吉田さんは話している。
4月から始める新しい企画に、「パンの日」というものがある。毎週金曜日朝イチの上映に合わせて、向かいのパン屋のパンとコーヒーを数量限定だが無料提供する、というサービスだ。「お客さんに対して、もっと何かサービスできないか」と話していたことから生まれたという。映画館としてはなかなか聞かない、珍しい試みだ。
珍しいと言えば、ロビーの充実具合にも目を見張るものがある。イスとテーブルがセッティングされているし、奥にはソファーもある。脇には本棚も。棚にある映画関連本は、実は販売ではなく自由に読むことができる。みなみ会館の会員には、貸し出しも行っているという。
すべてに通じるコンセプトは「ゆったりくつろいでほしい」ということ、と吉田さんは話す。
「京都みなみ会館の周りには、時間をつぶせる場所があんまりないんですね。だから少なくともこの場所ではゆったりしてもらえればと思っています」
わざわざ足を運んでくれたお客様をもてなしたい。そんな思いが生んだ“心地よさ”が、この空間にはあふれている。
お客さんから京都みなみ会館はどう思われているか―そう聞くと、こんな答えが返ってきた。「朝から晩まで全然違うジャンルの映画をやっている。1日通してこんなに多彩な映画を観られるのはこの映画館ぐらいでは」―そう言ってもらうことが多いそうだ。
それは、あえて多種多様な作品をそろえるよう心がけているからだという。「時間帯によってまったく違う映画館になるぐらいです」と笑う吉田さん。ドキュメンタリーだったり、有名作品やシニア向けだったり、若い人向けのインディーズやホラー作品だったり。いろんなジャンルを自在に横断する作品のチョイスが、さまざまな層のお客さんを生み出している。
「うちはあんまり住み分けせずにやっています。1スクリーンしかないのに、これだけ多彩なものをやっているのは特色かなと思います。その流れは絶やさないようにやっていきたいですね」
吉田さんや映写技師も含めて、ほとんどのスタッフが20代だという現在の京都みなみ会館。
「歴史ある映画館なのに、スタッフはみんな若手。でもだからこそできることがあるのかな、と思っています」
スタッフが若いのに、映画館は昔からある老舗。そのギャップが面白いと思った。そしてそのズレがあるからこそ生まれる交流もある。
長年の映画ファンが多い京都みなみ会館では、スタッフよりお客さんの方が映画に詳しい場合もしばしば。一年に何百本も観るという筋金入りの映画好きも多く、「そういう人たちから映画についてたくさん教えてもらっている。すごくありがたい」と話す。
「この監督の過去作はこういうもので、とか、こういう特集はこう組んだらいいよとか。そういうことでたくさんアドバイスをいただいています」
それは監督たちの舞台あいさつの時も同じだ。「私たちが聞くより、観客からの質問の方が要点をつかんでいたり、詳しく突っ込んで聞けたりします。いつも勉強させてもらっています」吉田さんは、お客さんを誇るような口調で話してくれた。それは長年この場所で映画を上映しつづけたからこそ生み出された“財産”だ。今の京都みなみ会館は、「お客が一緒に育てていく映画館」なのかもしれない。
老舗ならではのシニアの客が生み出す、映画への造詣の深さ。そこに若いスタッフの感性と努力がミックスされる。その結果生まれる、オールナイトをはじめとする精力的なイベントやサービスの数々。種類を問わない多彩なラインナップ。そして行き届いたおもてなしの心。
歴史ある外観とは裏腹に、京都みなみ会館は今まさに躍動しているのだろう。
今後の展開が非常に楽しみなミニシアターの一つとして、ぜひ注目しておきたい。